本研究は、菌叢を構成する種々の細菌群集のうち、特定の属種に対してのみ選択的な細胞死を誘導するための基盤技術を開発することを目的に立案されたものである。2021年度までの取り組みとして、cell penetration peptide (CPP)を用いたペプチド核酸 (PNA)の細胞内導入とこれを用いた大腸菌 (Escherichia coli)の細胞死誘導を確認することができた。2022年度は、上記の手法による細胞死誘導が、他の属種の細菌(Pseudomonas putida)についても適応可能であることを確認した。具体的には、P. putidaの必須遺伝子であるftsZに結合するPNAのN末端側にCPPを結合した合成ペプチドを作成した。大腸菌、P. putidaのそれぞれの純粋培養液にこのCPP-PNAを導入したところ、約2 microMの低濃度で、P. putidaにのみ顕著な細胞死を確認することができた。次にE. coli、P. putidaに加え、さらに2種類の細菌(P. fluorescence、Lactobacillus plantrum)を同一の液体内で培養した人工菌叢を作成し、ここにE. coli、P. putida選択的なCPP-PNAを導入した。この結果、E. coli、P. putida選択的な細胞死を観察することができた。また興味深いことに、E. coli、P. putidaの細胞死に連動したP. fluorescence、L. plantrumの生細胞数の増減が観察され、人工菌叢中における各細菌の相互依存性の一端を垣間見ることができた。
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