独立栄養生物である植物は、光合成により空気中の二酸化炭素から糖に炭素を固定できる。その一方で、植物病原菌などの従属栄養生物は、他の生物より有機物を摂取することでしか炭素を獲得できない。宿主-病原菌間相互作用の形成に関する栄養吸収の重要性は広く認知されているものの、その分子機構の解析例は非常に乏しくほぼ未解明である。そこで本研究では、主な目的として病原菌の糖吸収の分子機構の解析から病原性発現との関係性を明らかにすることを目指した。農作物の病害要因は糸状菌によるものが大部分を占める。その農学的重要性を考慮し、本研究ではウリ科植物に感染する病原糸状菌であるウリ類炭疽病菌(Colletotrichum orbiculare)を用いて糖トランスポーター遺伝子の破壊解析を実施した。ウリ類炭疽病菌の糖トランスポーター遺伝子は複数あり、それらの機能重複性が予想された。そこで多重遺伝子破壊株を迅速に作製するためのツールをまず初めに開発した。相同組換えによる遺伝子破壊効率の上昇のためにCRISPR/Cas9システムを、多重変異体作製のためのマーカーリサイクリングのためにCre/loxPシステムをウリ類炭疽病菌に最適化することで多重遺伝子破壊解析を可能にした。本研究ではこれらのシステムを用いて、遺伝子破壊解析によりウリ類炭疽病菌の病原力に関与する進め、また並行して特定の糖トランスポーター遺伝子ファミリーの網羅的遺伝子破壊を行った。その結果、病原性が低下した糖トランスポーター破壊株を単離した。さらには、対象を糖代謝酵素にも広げて遺伝子破壊解析を行ったところ、病原性の低下を示す遺伝子破壊株を単離した。これらの変異体は、病原性の低下以外にも胞子数の減少などの病原型が似ており、糖トランスポーターによる吸収および代謝酵素による糖代謝が関連していることが考えられた。
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