研究課題/領域番号 |
20K21281
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
沼田 倫征 九州大学, 農学研究院, 准教授 (10401564)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | 非コードRNA / リボスイッチ / 遺伝子の発現調節 / 細菌 / PreQ1 / tRNA / 修飾ヌクレオシド / 抗生剤 |
研究実績の概要 |
細菌はmRNAの5’非翻訳領域にリボスイッチとよばれる特殊な立体構造を形成するRNA領域を持つ。リボスイッチはリガンドと結合し、下流にある当該リガンドの合成や輸送に関わる遺伝子の発現を調節する。PreQ1リボスイッチは、preQ1(キューオシンの前駆体)の生合成や輸送に関わる遺伝子の発現を調節する。細菌はpreQ1を合成した後、グアニントランスグルコシダーゼを用いて、tRNAアンチコドン一字目のグアニン塩基とpreQ1との交換反応を触媒する。tRNAに取り込まれたpreQ1はさらに修飾されてキューオシンとなる。キューオシンはtRNAの正しいコドンの認識に重要である。この修飾は真核生物にも存在し正確なタンパク質合成に不可欠であるが、真核生物はpreQ1の生合成経路を持たず、食餌や腸内細菌からキューオシンを摂取する。このように、(1) preQ1リボスイッチは細菌にだけ存在すること、(2) 正確なタンパク質合成に不可欠であることから、preQ1リボスイッチは新規な抗生剤の標的になると考えられる。つまり、preQ1リボスイッチと結合する合成化合物は、preQ1の生合成を抑制する新規抗生剤の候補となり得る。本研究では、preQ1リボスイッチを標的とした新規薬剤の創製を目指している。 本年度は、これまでに取得していたpreQ1リボスイッチと結合し下流遺伝子の転写を抑制する合成化合物(以下、親化合物)の化学構造を基盤にして誘導体を作製した。誘導体の転写抑制効果を測定した結果、2種類の誘導体の活性が親化合物と比較して上昇していた。次に、これら誘導体とpreQ1リボスイッチとの結晶構造を決定した。その結果、preQ1が結合する部位に化合物が結合していた。主にリボスイッチで保存された塩基とのスタッキングにより結合が安定化されていた。また、化合物とリボスイッチとの間に水素結合も形成されていた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、preQ1リボスイッチと結合し下流遺伝子の転写を抑制する合成化合物を、低分子化合物マイクロアレイを用いたスクリーニングによって同定していた(Nat. Commun. 2019)。本年度は、この合成化合物(親化合物)の化学構造を基盤にして8種類の誘導体を作製した。これら誘導体化合物の転写抑制効果を測定した結果、2種類の誘導体の転写抑制活性が親化合物と比較して上昇していた。他の誘導体に関しては親化合物と同程度の活性を示した。一方で、親化合物と比較して活性が上昇した2種類の誘導体の転写抑制活性は、天然のリガンドであるpreQ1と比較すると未だ微弱であることも明らかとなった。次に、これら誘導体化合物と結合したpreQ1リボスイッチを結晶化し、複合体の立体構造を分解能2.0から2.5Å程度で決定した。その結果、preQ1が結合する部位に化合物が結合していた。主にリボスイッチで保存された塩基とのスタッキングにより結合が安定化されていた。また、化合物とリボスイッチとの間に水素結合も形成されていた。PreQ1結合型の立体構造と比較するとリガンド結合部位近傍のループ構造および発現プラットフォームの構造が少し異なっており、この構造の違いが転写抑制活性の差に関連すると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
転写抑制活性が上昇した誘導体の化学構造を基盤にして、さらに誘導体を合成するとともに、親化合物の化学構造をもとに別の誘導体を作製する。得られた誘導体を用いて、in vitroにおける転写抑制活性を測定し評価する。また、合成した誘導体とpreQ1リボスイッチとの複合体の結晶を作製し、その結晶構造を決定して、化合物との結合様式を解明する。また、その立体構造情報をさらなる誘導体作製にフィードバックする計画である。 これまでに決定した複合体の立体構造から、リガンド結合に関わるC15を中心としたループ構造および発現プラットフォームの構造が効率的な転写抑制活性に重要であると推察される。そこで、これら領域に変異を導入した変異型preQ1リボスイッチを作製して、変異体の転写抑制活性を評価するとともに立体構造を決定し各ヌクレオチドの寄与を検討する。この機能構造解析の結果は、転写抑制活性を促進する合成化合物の設計にも役立つと考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染症拡大のためリモート実験などが多くなり、当初予定していた旅費などの支出が無くなったため。また、おおむね研究は順調に進んでいるが、新型コロナ感染症の拡大のため実験がある程度制限され、消耗品などの支出が少なくなったことも原因である。 引き続き新型コロナ感染症対策のために実験が制限される可能性もあるが、次年度の助成金と合算して外注できる特殊な消耗品などに支出する予定であり、これにより研究の促進を図る。
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