研究課題/領域番号 |
20K21290
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
古川 良明 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (40415287)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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キーワード | ミスフォールディング |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、タンパク質がその構造に依存して毒性を発揮する可能性を検証することである。天然構造から異常化した「ミスフォールド型」タンパク質の経口摂取については、その毒性評価の実験的手法も含めて検討されていないが、ミスフォールド型タンパク質を摂取することが、疾患発症の要因になりうるのではないかというアイデアを検証する計画である。例えば、アルツハイマー病に代表される神経変性疾患では、その病変部位にミスフォールド型タンパク質が蓄積していることから、ミスフォールド型タンパク質を培養細胞に添加することで、その潜在的な毒性発揮のメカニズムが頻繁に議論されている。本研究では、各種の神経変性疾患においてミスフォールドするタンパク質(Abetaやalpha-synucleinなど)を線虫に経口摂取させることで、個体レベルでの毒性発揮の可能性について検証を進めている。進捗状況にも記載の通り、本年度はパーキンソン病の発症要因となるタンパク質alpha-synucleinに着目し、線虫に投与することでその毒性について評価を進めた。特に、生存期間や首振り運動の回数に着目することで、alpha-synucleinの毒性を定量的に評価した。その結果、タンパク質構造に依存して毒性が線虫に対して発揮される現象を見出すことができたものの、今回の研究で観察された毒性がパーキンソン病の発症に関与するのかどうかは明らかにできなかった。現在は、alpha-synucleinの経口摂取がどのようにして毒性発揮につながるのか、そのメカニズムについて検討を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
タンパク質はそれぞれに固有の立体構造を構築することで生理機能を発揮する。しかし、遺伝子変異に伴うアミノ酸置換や環境の変化によってその構造が異常化(ミスフォールド)すると、毒性を発揮することで疾患の発症要因になることがある。しかし、ミスフォールド型タンパク質の潜在的な毒性が、経口摂取によっても発揮されうるのかはこれまでに検討がなされていない。そこで、ミスフォールドすることで神経細胞に毒性を発揮し、パーキンソン病や多系統萎縮症などを発症させることが提案されているタンパク質alpha-synuclein(aSyn)をモデルとして、それらの投与が線虫の生存期間に及ぼす影響について検討を行った。aSynの線維状凝集体を投与しても生存期間に大きな影響は見られなかったのに対して、線維化していないaSynを線虫に投与すると、生存期間は大幅に短縮し、毒性が発揮されることがわかった。また、線虫の運動性を表す首振り運動の回数について計測したところ、線維化していないaSynを投与することで大幅に減少し、投与後4日以降はほぼ動かなくなることが分かった。一方で、線維状凝集体の投与が首振り運動に及ぼす影響はなかったことから、線維化していないaSynの毒性が示唆された。よって、aSynは経口摂取を通じて毒性を発揮し、その毒性はaSynの構造に大きく依存することを示すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、alpha-synucleinの経口摂取による毒性発揮について、線虫をモデルとした研究を進め、論文として発表することを目指す。さらに、alpha-synuclein以外のタンパク質についても、経口摂取による毒性の検証を行い、本実験で得られた毒性発揮の現象に一般性があるのかについても検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度の前半においては、緊急事態宣言などの発出といったCOVID-19の感染状況に応じた対策のため、実験補助員を雇用できずに実験量が減少し、消耗品などのあらたな購入を見合わせた。一方で当該年度の後半では、対策を講じた上で研究協力者の確保とともに、感染状況に関わらず実験を進めることができるようになったことから、消耗品を購入する必要も生じており、謝金・人件費の使用も予定している。そこで、次年度には当該年度の所要額を全て使用する計画である。
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