研究課題/領域番号 |
20K21293
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
高橋 恭子 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (70366574)
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研究分担者 |
松藤 寛 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (70287605)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | 腸内細菌 / γ-アミノ酪酸 / 腸管上皮細胞 |
研究実績の概要 |
昨年度の研究により腸管GABA濃度を上昇させることが明らかになったビフィズス菌株をマウスへ経口投与し、Y迷路試験により記憶行動に対する影響を評価した。その結果、ビフィズス菌投与群で自発的行動が減少し、空間作業記憶が向上する傾向が観察された。昨年度の研究において不安様行動の低減が確認されており、腸管GABA濃度を上昇させるビフィズス菌株の投与がマウスの行動特性に影響を及ぼすことが示された。また、マウス盲腸内容物から選択培地を用いて単離した菌のうちで占有率が腸管GABA濃度と負の相関を示した細菌目に属する菌についてin vitro培養試験によりGABA消費能を測定した結果、顕著なGABA消費能を示さなかった。投与したビフィズス菌株はGABA合成酵素遺伝子を持たないことから、占有率が腸管GABA濃度と正の相関を示した細菌目に属する単離菌が高いGABA産生能を示した昨年度の結果と合わせると、ビフィズス菌投与群での腸管GABA濃度の上昇は、腸内細菌叢の構成が変化しGABA高産生菌が増加したことによると考えられた。 また、昨年度解析したヒト腸管上皮細胞株に加えて、マウス腸管オルガノイドを用い、腸管上皮細胞におけるGABA受容体の発現を確認した。さらに、ヒト腸管上皮細胞株におけるGABA刺激によるMAPKシグナル伝達について解析を行った結果、GABA刺激により、GABA A受容体を優位に発現する細胞株とGABA B受容体を優位に発現する細胞株では異なるMAPKの活性化が誘導された。上述のビフィズス菌株投与マウスの腸管上皮細胞におけるMAPKのリン酸化を解析した結果、投与群で対照群と比較してErk, p38の活性化が観察された。 これらの結果より、腸管内GABAが宿主の行動特性に影響を及ぼすことが明らかになり、その作用機序として腸管内GABAが腸管上皮を介して作用する可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
マウスにおいて腸内細菌叢への介入による腸管GABA濃度の上昇が、宿主の行動特性に影響を及ぼすことを明らかにした。また、腸管GABA濃度の上昇がGABA高産生菌の増加による可能性が高いことを示すことができたが、この菌と実際の腸管GABA濃度の相関の解析は完了しなかった。一方、GABA受容体が腸管上皮細胞に発現すること、GABA濃度の上昇によりどのようなシグナル伝達が誘導されるかをin vitroおよびin vivoで明らかにしたが、そのGABA依存性の評価と上皮透過性等との関係については解析を完了することができなかった。以上、およそ計画に沿って研究を遂行することができたが、一部に遅れが生じている状況である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度までの研究により、腸管GABA濃度の上昇が不安行動や記憶行動といった宿主の行動特性に影響を及ぼすことが示されたことから、今後は観察された行動特性の変化について、腸管上皮細胞に発現するGABA受容体への依存性、透過性等の上皮機能変化への依存性を評価する。また、腸管オルガノイドを用いて、GABA刺激が誘導する腸管上皮細胞におけるシグナル伝達の詳細を解析する。マウスの腸管におけるGABA受容体の発現を組織切片を用いた免疫染色により解析するとともに、腸内細菌叢の構成変化を介した腸管GABA濃度の上昇が腸管上皮細胞におけるシグナル分子の活性化に及ぼす影響を解析する。さらに、GABA高産生菌株の占有率と腸管GABA濃度の相関関係を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
腸管オルガノイドを用いてシグナル伝達の解析を行う条件の決定に時間を要したこと、コロナ禍による研究室活動の制約があったことから研究の進捗に遅れが生じ、研究期間を1年延長した。次年度の研究費は、実験用試薬(シグナル分子・受容体に対する抗体、蛍光標識プローブ、受容体アンタゴニスト、細胞やオルガノイドの培養に用いる培地およびその添加物など)、実験用消耗器具(細胞培養用フラスコ・チューブ・ピペットなど)、実験動物(マウス)の購入に使用する計画である。
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