研究課題
本研究において、マウスへのビフィズス菌株の経口投与により、腸管内GABA濃度が上昇し、不安行動や記憶行動といった行動特性に影響を及ぼすことが明らかになった。この際、血中コルチゾール濃度に変化は認められなかった。ビフィズス菌株の投与により腸内細菌叢の構成の変化が認められ、投与菌株はGABA合成酵素遺伝子を持たないことから、本菌株の投与はGABA産生菌の増加あるいはGABA消費菌の減少を介して腸管内GABA濃度を上昇させると考えられた。実際に、盲腸内容物から選択培地を用いて単離した菌株のなかに、グルタミン酸添加培地で培養した際に培養上清中にGABAを高産生する株を同定した。また、マウス腸管組織切片およびマウスより単離した腸管上皮細胞を用いて、腸管上皮細胞にGABA受容体が発現することを明らかにした。ヒト腸管上皮細胞株およびマウス腸管オルガノイドを用いた解析においても、GABA受容体の発現が認められ、GABA刺激によるMAPKリン酸化の変化が観察された。腸管上皮細胞株には、GABAA受容体を優位に発現する株とGABAB受容体を優位に発現する株が存在した。これらの細胞株ではGABA刺激により誘導される細胞内シグナルパターンに差異が観察され、発現する受容体タイプにより惹起されるシグナル伝達が異なることが示された。さらに、ビフィズス菌株を投与したマウスの腸管上皮細胞においてMAPKシグナルの惹起が認められた。このうち最終年度においては、行動試験の一部、腸管組織切片を用いたGABA受容体の発現解析、ビフィズス菌株投与による腸管上皮細胞におけるMAPKシグナルの解析、腸管オルガノイドを用いたGABAシグナル伝達の解析を実施した。以上の結果より、腸内細菌叢への介入により腸管内GABA濃度が上昇し宿主の行動特性に影響を及ぼすこと、腸管内GABAが腸管上皮を介して作用する可能性が示された。
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Front. Mol. Biosci.
巻: 9 ページ: 1005136
10.3389/fmolb.2022.1005136. eCollection 2022.