研究課題/領域番号 |
20K21294
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
小山内 崇 明治大学, 農学部, 専任准教授 (60512316)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | シアノバクテリア / クエン酸回路 / TCA回路 / オキサロ酢酸 / 代謝再構成 |
研究実績の概要 |
本研究の中心となる代謝は、シアノバクテリアのピルビン酸代謝とクエン酸回路である。本研究は、1)in vitro代謝再構成による非酵素反応の検証や2)遺伝子改変による非酵素的代謝反応の検証の手法により、現在の代謝では予測しない代謝反応を明らかにするものである。 2021年度は、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(PEPC)、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ(MDH)、クエン酸シンターゼ(CS)の3つの酵素のin vitro代謝再構成を行った。この系では、オキサロ酢酸が、酸化的方向であるクエン酸になるのか、還元的方向であるリンゴ酸になるのかについて調べることができる。この結果、pHやマグネシウムイオンによって、オキサロ酢酸の分配が大きく変化されることが明らかになった(Ito et al. 2021 Plant J)。一見すると、1つ1つの酵素の結果を統合すればわかりそうなものであるが、実は3つの酵素を組み合わせると基質や生成物の量が不規則に変動する。このため、代謝を再構成しなければ、どの要因がオキサロ酢酸の分配に効くかは明らかにならない。この結果は、The Plant Journalに掲載され、同誌のResearch highlightにも選ばれた。 また、クエン酸回路の酵素であるアコニターゼの生化学解析を行った。この結果、アコニターゼは、一般的なイメージと異なり、イソクエン酸からクエン酸方向への反応が強いことがわかった(Nishii et al. 2021 Sci Rep)。この結果は、シアノバクテリアの細胞内で、クエン酸の蓄積量が多いのは、アコニターゼの性質によるものであることを示唆した。このように、これまで考えられてきた代謝のイメージは、酵素の生化学や再構成によって明らかになったものと全く異なるものであった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、クエン酸シンターゼ、アコニターゼなどの酵素の生化学解析を通して、代謝の新しい形を明らかにすることができた。遺伝子が発見されて以来、代謝経路が明らかになり、シアノバクテリアのクエン酸回路も解明されていると考えられてきた。しかし、本実験で生化学解析や代謝の再構成を行うことで、他の生物とは全く異なる代謝分配の機構や代謝産物の量的な関係性の要因を発見することができた。 特に、化学的に不安定なオキサロ酢酸については、その分配がpHや金属イオンで制御されていることが明らかになった。これにより、代謝反応が進まない時でも、オキサロ酢酸がクエン酸やリンゴ酸に蓄積することで、不必要な分解が起こらないようになっていると考えられる。また、クエン酸についても、酵素の性質によって蓄積させることができ、これらが鉄などの金属のキレート剤として働くことも示唆された。このように本研究は、化合物の化学的な安定性と代謝酵素の生化学的な性質が整合性の取れた形で存在しており、長い年月を経て、シアノバクテリアの酵素が高度に進化してきたことを明らかにするものであった。 コロナウイルスの蔓延などにより、途中には大学や研究室のシャットダウンなどもあり、実験ができない期間があった。しかしながら、当該期間中はデータ解析や論文執筆を行うなど、可能な作業を行うことで、シアノバクテリアの代謝のイメージを刷新する内容の論文を発表することができたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、シアノバクテリアのクエン酸回路を中心に、遺伝子配列だけではわからない、代謝の量的な関係性や化合物の性質も加味した制御メカニズムを明らかにしてきた。今後は、クエン酸回路の周辺にあるピルビン酸代謝や、アミノ酸代謝との関係性も明らかにすることで、シアノバクテリアにおけるクエン酸回路の特徴的な位置付けが明らかになると考えている。 また、関連する代謝酵素の遺伝子改変株を作製することで、得られた生化学解析の結果が、in vivoでも正しいかについての検証が可能であると考えている。すでに、例えばシアノバクテリアシネコシスティスの2つあるピルビン酸キナーゼPyk1とPyk2の欠損株の作製に着手しており、これらの遺伝子改変株を用いて、代謝産物解析を行いたいと考えている。また、クエン酸回路の酵素であるリンゴ酸デヒドロゲナーゼ、クエン酸シンターゼ、フマラーゼなどの遺伝子改変株において、呼吸や光合成電子伝達への影響も調べようと考えている。これにより、クエン酸回路から産生される還元力と、電子伝達から産生されるATPとの関係性も明らかになると期待している。 さらに、in vitroの再構成実験については、これまでの3つの酵素に加え、付随する代謝酵素を加えることで、ピルビン酸代謝やアミノ酸代謝も含めた解析が可能であると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該研究は、2020,2021年度が研究期間である。この期間は、コロナウイルスによる大学の閉鎖や人数制限が最も厳しい時期であった。例えば2021年度の4から6月は、大学の講義がほぼオンライン化されるとともに、研究室においても人数制限が厳しく課されていた。さらに、現在においても大学はレベル1とはいえ、研究室の人数制限なども課されている。このような中で、シアノバクテリアの代謝におけるデータ解析や論文執筆を行ってきたが、消耗品の使用が少なくなり、研究費を使う額が大きく減った。また、予定した学会参加は、国内学会なども含めてオンライン開催となり、研究費を使用しなかった。この減少分について、次年度に使用することで、研究のさらなる発展が可能であると考えている。特に、酵素の生化学解析については、すでに発現ベクターが完成しているものも多数あり、これらを利用することで、さらに研究成果を挙げることが可能であると考えている。
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