研究課題/領域番号 |
20K21295
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
和穎 朗太 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 農業環境研究部門, 上級研究員 (80456748)
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研究分担者 |
長尾 眞希 (浅野眞希) 筑波大学, 生命環境系, 助教 (80453538)
井上 弦 長崎総合科学大学, 総合情報学部, 准教授 (30401566)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | 土壌炭素 / 土壌構造 / 温暖化 / 炭素隔離 / 凝集体 / 団粒 / 同位体トレーサー |
研究実績の概要 |
1)日本の典型的農地土壌であり、強固かつ階層的団粒構造を持つアロフェン質黒ボク土表層(Ap層)を対象に、13C, 15N標識グルタミン酸添加培養実験を好気条件(最大容水量の50%)で行なった。1カ月および10か月後、低比重画分の分離後、3段階の分散強度条件で粒径分画を行い、微生物が代謝した標識アミノ酸の行方を追跡した。弱い分散(振とう)条件では、重量の5割弱、全炭素・全窒素量の3割が砂画分(>53μm)に存在した。超音波による中レベルおよび最大レベル分散条件では、砂画分の重量割合は2割(中)から1割弱(最大分散)に、炭素・窒素割合は1割弱から検出限界以下に低下し、>53μmサイズ団粒が段階的に崩壊したこと、つまり団粒構造の階層性が示された。10カ月後には無機化が進み標識CN濃度は全体として低下するものの、微生物に再利用されやすい15Nについては、1カ月後に比べて以下の画分で顕著な富化が見られた:すべてのサイズ画分(弱分散)、<53μmのすべての画分(中分散)、0.2~53μm画分のみ(最大分散)。以上から、微生物代謝された標識C、Nの多くは分散しやすい微小粒子(<2μm)に貯留し、最大分散条件によって初めて崩れる強固なミクロ団粒には標識C, Nが到達しづらいことが分かった。つまり団粒階層性と微生物代謝による物質移動の関係性を初めて明らかにできたと考えられる。
2)XPSを用い土壌粒子表面の化学性評価から、土壌粒子の比重に応じて有機物被覆率の変化が示された。またXPSのAr+スパッタによる深さ方向分析から、熱による試料損傷の可能性は完全には否定できないものの、土壌粒子表面の情報としては解釈が可能な連続的な変化が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
培養実験後の分画が完了し、各画分の化学特性データも出揃いつつあり、上述の通り当初の仮説の検証に成功しつつある。加えて、XPSから団粒表面の化学組成が得られつつあるため、予定以上の進捗と言える。
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今後の研究の推進方策 |
1)標識培養実験と物理分画を組合わせることで、C,Nの行方を定量的に評価することができたが、同位体顕微鏡(NanoSIMS)を使えば、更に物理画分中の標識C,Nの存在状態を明らかにすることができる。国内の共同利用施設でNanoSIMSの利用を模索したが、土壌分析のための条件検討等が必要であり、直ぐに利用できる状況にないことが分かった。そこで、既に土壌のNanoSIMS分析に特化した独ミュンヘン工科大学土壌科学グループの協力を得て進める。 2)XPSを用いた研究に関しては、土壌炭素・窒素の安定化や鉱物組成情報がよく分かっている対象的な土壌タイプ3点の比重画分を用いて、更に解析を進め、溶質や菌体と土壌の反応場の差異や共通する特徴を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍による出張制限および国内での同位体顕微鏡分析が出来なかったため残額が生じた。この分は、次年度のXPS分析装置使用料、安定同位体分析費等の土壌キャラクタリゼーションにかかる費用にまわす。
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