バイオプロセスを用いた物質生産では、遺伝子の発現制御が重要であり、光、温度、電気などの物理刺激を用いて代謝経路のオン-オフを精密に制御するシステムの開発が待たれている。本研究では、化学物質を添加する遺伝子発現誘導方法に代わる新たな遺伝子発現の制御法として「電気」を利用する方法の可能性を探索する。その方法として、発電性のGeobacter属細菌の電位認識機構を同定し、その遺伝子群を有効利用する事を目指す。 本年度は、Geobacter属細菌中にコードされる、電気刺激に応答して遺伝子発現が変動する3つのマルチヘムシトクロームC(OmcQ、CbcA、CytB)を、それぞれ欠落させたGeobacter sulfurreducens PCA株を用いて、これらの遺伝子の機能同定を目指した解析を行った。固体鉄培養試験、可溶鉄培養試験、フマル酸培養試験を行った結果、3種の変異株で顕著な差異は見られなかった。これは、これらの遺伝子が欠落していても菌体外電子授受が可能である事を示唆している。一方で、各変異株の全タンパク質を抽出し、シトクロームCのプロファイルを比較したところ、明確に差異のあるバンドが見られた事から、何らかの電子授受活性の変化は起こっていると考えられた。 研究期間全体の成果として、モデル電気微生物であるGeobacter属細菌がコードする電位認識に関連するシトクロームCが、この属の中で普遍的なタンパク質である事を比較ゲノミクス解析により明らかにする事ができた。さらに、モデル微生物のGeobacter sulfurreducens PCA株を用いて、これらのシトクロームC遺伝子の欠損株の作成に成功した。これらの変異株の機能を調べる事により、Geobacter属細菌の電気刺激に対する認識機構を明らかにする事ができ、電気を用いた遺伝子発現制御法の開発につなげる事が期待できる。
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