昆虫特異的ウイルスによるアルボウイルス制御

2021 年度 実施状況報告書

• 研究課題/領域番号: 20K21298
• 研究機関: 北海道大学
• 研究代表者: 大場 靖子 北海道大学, 人獣共通感染症国際共同研究所, 准教授 (60507169)
• 研究期間 (年度): 2020-07-30 – 2023-03-31
• キーワード: アルボウイルス / 昆虫特異的ウイルス / 蚊

研究実績の概要

本研究では、蚊と共存し病原性の無い昆虫特異的ウイルスが、蚊に同時に感染したアルボウイルスの増殖に及ぼす影響を明らかにし、昆虫特異的ウイルス感染蚊によるアルボウイルス制御の可能性を示すことにより、蚊媒介性ウイルス感染症の予防策に繋げることを目的としている。
本年度は、ボリビアの生息蚊から単離したネジェウイルス群のロレトウイルス(LORV)の成虫蚊、又は幼虫での増殖形態を明らかにするため、in vivo感染実験を実施した。Aedes albopictus, Aedes aegypti, Culex pipiensの成虫継代蚊にLORVを人口吸血により感染させ、2週間後の各蚊個体でのLORV感染をqRT-PCRで解析した結果、Ae. albopictusおよびAe. aegyptiで感染率が高く、ウイルスコピー数は多くの個体で10^8コピー以上であった。また、Ae. aegypti幼虫へのLORV感染実験の結果、幼虫への感染はほとんど認められず、LORVがシマカ成虫で効率的に増殖することが判明した。Ae. albopictusを用いたLORV感染モデルを用いて、LORVが蚊成体内で、デングウイルス２（DENV2）と共感染した際のウイルス増殖への影響を検討した、その結果、LORVとの共感染によるDENV2の感染率、および共感染した個体のDENV2ゲノム量は、DENV2感染単独の蚊と比較し顕著な差が認められなかった。このことから、昨年度に得られた蚊由来細胞でのLORV共感染によるDENV2増殖抑制の結果と異なり、蚊成体内では、双方のウイルスが共存し増殖し得ることが明らかとなった。

現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

R３年度の計画予定通りに、蚊成体におけるLORVの増殖の解析と感染モデルの確立、およびLORVがアルボウイルスの感染増殖に及ぼす影響の検証を実施した。

今後の研究の推進方策

LORVが蚊成体内でDENVの増殖に影響しなかったことから、これまでに蚊から単離した蚊特異的ウイルスや、蚊に常在する新たなRNAウイルスを単離し、継代蚊を用いてアルボウイルスとの共感染の影響を検討する。
本年度も海外での蚊の採集は困難である可能性があることから、国内のヒトスジシマカ等の採集を実施し、野外生息蚊の共存ウイルス保有状況の地域差を調査すると同時に、継代飼育した野外蚊のアルボウイルスの感染感受性を解析する。

次年度使用額が生じた理由

野外生息蚊のサンプル採集が出張の制限により不可能であった為、出張旅費および解析費用を次年度使用とした。

研究成果

• [国際共同研究] 国立アイルランド大学ダブリン校(アイルランド)
  • 国名: アイルランド
  • 外国機関名: 国立アイルランド大学ダブリン校
• [国際共同研究] ザンビア大学獣医学部(ザンビア)
  • 国名: ザンビア
  • 外国機関名: ザンビア大学獣医学部
• [国際共同研究] Gabriel Rene Moreno大学獣医学部(ボリビア)
  • 国名: ボリビア
  • 外国機関名: Gabriel Rene Moreno大学獣医学部
• [国際共同研究] Queensland大学(オーストラリア)
  • 国名: オーストラリア
  • 外国機関名: Queensland大学
• [雑誌論文] Current knowledge of vector-borne zoonotic pathogens in Zambia: A clarion call to scaling-up "One Health" research in the wake of emerging and re-emerging infectious diseases. (2022)
  • 著者名/発表者名: Mubemba B, Mburu MM, Changula K, Muleya W, Moonga LC, Chambaro HM, Kajihara M, Qiu Y, Orba Y, Hayashida K, Sutcliffe CG, Norris DE, Thuma PE, Ndubani P, Chitanga S, Sawa H, Takada A, Simulundu E.
  • 雑誌名: PLoS Negl Trop Dis. 巻: 16(2) ページ: e0010193
  • DOI: 10.1371/journal.pntd.0010193.
  • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
• [雑誌論文] Mosquito-Borne Viral Pathogens Detected in Zambia: A Systematic Review. (2021)
  • 著者名/発表者名: Velu RM, Kwenda G, Libonda L, Chisenga CC, Flavien BN, Chilyabanyama ON, Simunyandi M, Bosomprah S, Sande NC, Changula K, Muleya W, Mburu MM, Mubemba B, Chitanga S, Tembo J, Bates M, Kapata N, Orba Y, Kajihara M, Takada A, Sawa H, Chilengi R, Simulundu E.
  • 雑誌名: Pathogens 巻: 10(8) ページ: 1007
  • DOI: 10.3390/pathogens10081007.
  • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
• [雑誌論文] An African tick flavivirus forming an independent clade exhibits unique exoribonuclease-resistant RNA structures in the genomic 3'-untranslated region. (2021)
  • 著者名/発表者名: Harima H, Orba Y, Torii S, Qiu Y, Kajihara M, Eto Y, Matsuta N, Hang'ombe BM, Eshita Y, Uemura K, Matsuno K, Sasaki M, Yoshii K, Nakao R, Hall WW, Takada A, Abe T, Wolfinger MT, Simuunza M, Sawa H.
  • 雑誌名: Sci Rep. 巻: 11(1) ページ: 4883
  • DOI: 10.1038/s41598-021-84365-9.
  • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
• [学会発表] 地球規模で広がる蚊媒介ウイルス感染症の対策に向けて (2022)
  • 著者名/発表者名: 大場 靖子
  • 学会等名: 山口大学 中高温微生物研究センター発酵微生物部門シンポジウム「未来を拓くバイオSDGs」
  • 招待講演
• [学会発表] 蚊特異的フラビウイルス抗体の脊椎動物感染性フラビウイルスへの反応性解析 (2021)
  • 著者名/発表者名: 田畑耕史郎、板倉友香里、岸本麻衣、佐々木道仁、澤洋文、大場靖子
  • 学会等名: 第68回日本ウイルス学会学術集会