進化的なチョウ目昆虫は、核のある有核精子だけでなく核のない無核精子を作る。無核精子は受精に必須なことから、積極的に産生されていると考えられる。この2種類の精子は、精巣のひとつの精室内において同一の精原細胞から作られる。しかし、どうのようにして有核精子と無核精子を作り分けているか、その分子機構の詳細は明らかになっていない。これまでに申請者らは、昆虫ホルモンが無核精子形成を阻害することを見出した。また2019年には、カイコsex lethal遺伝子(BmSxl)のゲノム編集によるノックアウトカイコにおいて、無核精子の形態異常が報告された。そこで我々は、sex lethalと昆虫ホルモンを中心として、カイコを用いて無核精子形成機構の解明に取り組んできた。昨年度までに、sex lethalと昆虫ホルモンとの関係性に着目して検証を行なった。その結果、両者の関係性を明確にできた。そこで今年度は、両者を中心とした無核精子形成の分子機構の解析のために、RNAシークエンスによる網羅的な解析を試みた。その結果、ホルモンの下流、sex lethalの下流で作用することが期待される多くの候補遺伝子を得ることができた。また異なる発育時期間での比較も行い、発育時期特異的に発現するかどうかを条件とし、さらなる絞り込みも行なった。その結果、ホルモン応答遺伝子や転写因子など、精子形成への関与が強く示唆される遺伝子を多数得ることができた。これらの候補遺伝子を対象とし、今後、解析を進めることによって、無核精子産生の分子機構の全貌を掴めると考えている。
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