研究課題/領域番号 |
20K21305
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
馬場 まゆら (高田まゆら) 中央大学, 理工学部, 准教授 (10466807)
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研究分担者 |
樋口 洋平 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (00746844)
郭 威 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 助教 (70745455)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | 送粉生態系 / 花の発熱 / 画像処理 |
研究実績の概要 |
ハスは、花托と呼ばれる花の中心部分が発熱し、約4日間の開花中30~37度の間に維持される恒温性という機能を持つ。本研究は、東京大学のハス見本園において複数の品種のハス花を対象に花托の発熱パターンを調べ品種間での形態的及び遺伝的変異を利用して、目的①「ハス花の発熱が訪花昆虫を誘引し結実率を高める」という仮説の検証及び目的②ハス花の発熱・恒温性に関連する遺伝子の同定を行う。目的①に関しては、令和2年度は当初想定していたような野外におけるハス花の形質調査や花の自動撮影カメラを用いた撮影等を十分行うことができなかったため、前年に自動撮影カメラで撮影したハスの開花と訪花昆虫のデータを整理・解析し、頻繁にハスを訪花する昆虫グループやハス結実率に影響を与える昆虫グループを特定することを明らかにした。さらに、昆虫のハスへの訪花には発熱をはじめとした様々な花の形質だけでなく、気象条件(気温や降雨量)が大きな影響を与えていることが統計解析等により明らかになった。また昆虫の訪花頻度にはそれらの潜在的な捕食者(主にスズメバチ類)の訪花が負の影響を与えていることも示唆された。今後本研究を進めるにあたり、気象条件や訪花昆虫の捕食者の要因の効果も同時に考慮する必要があることが明らかとなった。目的②に関しては、予備的に発達段階の異なる2種類の花托をサンプリングし、RNA-seqによる網羅的な遺伝子発現解析を行った。その結果、約25000種類の遺伝子発現が検出され、花托特異的または花托の発達段階に特異的な転写産物を同定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の目的①は野外調査及び自動撮影カメラを用いたハス花の撮影が必須となるが、令和2年度はコロナの影響で想定していたような野外での作業を十分行うことができなかった。しかし前年度に予備調査として行っていた自動撮影カメラによるハス花の撮影データを生かして研究を進めることができた。約452,000枚の写真を対象に解析を行った結果、目的①の仮説を検証するために考慮すべきいくつかの交絡要因を特定することができた。目的②に関しては、予備的に発達段階の異なる2種類の花托(13 mm の未発達段階と開花1日目の花托)を用いてRNA-seq解析を行った結果、平均して4.79Gbのクリーンリードが得られ、ハスゲノムにマップした結果、約25000の遺伝子発現が検出された。このうち、地下組織と比較して花托で特異的に発現上昇した遺伝子を1778個、未発達の花托と比較して開花1日目の花托で特異的に発現上昇した遺伝子を2464個同定した。
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今後の研究の推進方策 |
目的①に関して次年度は、本来の研究計画に従って多くの品種を対象に様々な花形質を調べて十分発熱・恒温性を持つ品種と発熱していない品種を選定し、選定した品種の花を対象に自動撮影カメラを用いて開花約4日の間訪花昆虫類を5秒ごとに撮影し、撮影された写真を解析することで訪花昆虫の種や個体数を記録し解析する。目的②に関しては、前年度得られた予備的なRNA-seqデータを詳細に解析し、花托の発熱に関与する遺伝子群の発現動態を明らかにする。加えて、新たに発達段階の異なる花托における発熱程度を温度計により実際に測定し、RNA-seq解析に適した花托の発達段階を明らかにし、昨年度よりサンプル数を増やしてRNA-seqを実施する
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次年度使用額が生じた理由 |
既述の通り令和2年度はコロナの影響により本研究の核となる野外調査にあまり行くことができなかったため、想定していた通りに予算を使うことができなかった。次年度は当初の予定していた調査に加え、令和2年度にできなかった品種選定のためのハスの花形質調査も行う。
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