研究課題/領域番号 |
20K21307
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
木矢 剛智 金沢大学, 生命理工学系, 准教授 (90532309)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | 植物ステロイドホルモン / Hr38 / NR4A / ショウジョウバエ / ミツバチ / ドーパミン |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、昆虫の行動は植物ステロイドホルモンを介した記憶増強によって植物側から操作されている、という大胆な仮説の証明とその分子神経機構の解明にある。本研究者は最近、植物ステロイドホルモンには昆虫の脳に作用して記憶を増強する作用があることを見出した。これは従来考えられてきた植物が昆虫に従属する関係とは逆に、植物が昆虫の行動を操作する機構を進化的に獲得してきた可能性を示すものである。本研究では、訪花性昆虫のモデルとしてミツバチの働き蜂を、分子遺伝学的解析のモデルとしてショウジョウバエを用い、植物ステロイドホルモンが昆虫の脳機能や行動に作用する分子神経機構を明らかにし、本仮説をメカニズムに裏打ちされた形で証明することを目指す。 今年度は、優れた遺伝学的解析手法を駆使することが出来るショウジョウバエを用い、どのような神経回路を介して植物ステロイドホルモンが昆虫の行動に作用するのか、その神経基盤を調べた。今年度の研究では、中枢神経系特異的プロモーター制御下でHr38をRNAiした個体では、植物ステロイドホルモンによる長期記憶形成促進は認められなくなるという予備的な実験結果を得た。 次に、Hr38が脳のどこで機能することで長期記憶形成促進活性を持つのかということについて調べた。長期記憶形成時に一部のドーパミン細胞においてHr38をRNAiでノックダウンすると長期記憶が障害されるということを明らかにした。これにより植物ステロイドホルモンの受容体としてHr38が重要であること、Hr38が脳で作用するのは一部のドーパミン細胞においてであるといった点を明らかにした。これらは、本研究で提唱する仮説の検証において根幹をなす重要な結果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、植物ステロイドホルモンの受容体として想定しているHr38の機能解析を行った。中枢神経系特異的プロモーター制御下にGeneswitch-GAL4を発現する系統を用いて、神経系特異的にHr38をRNAiした個体を作成した。このような個体では、植物ステロイドホルモンによる長期記憶形成促進は認められなくなるという予備的な実験結果を得た。 上記の実験と並行して、Hr38が脳のどこで機能することで長期記憶形成促進活性を持つのかということについて調べた。これまでに一部のドーパミン細胞においてHr38の過剰発現をすると、本来ならば短期記憶しか形成されない条件で長期記憶が形成されるといった長期記憶形成促進活性を見出していた。本年度は逆に長期記憶形成時にこの一部のドーパミン細胞においてHr38をRNAiでノックダウンすると長期記憶が障害されるということを明らかにした。 一方、当初の計画では重要と見込んでいたGABA作動性神経回路については、Hr38の過剰発現による記憶形成促進活性は認められなかった。 このように、Hr38が植物ステロイドホルモンの受容体として脳において機能することや、一部のドーパミン細胞において長期記憶で機能することを明らかにした。これらの結果は、植物ステロイドホルモンは脳の一部のドーパミン細胞においてHr38を介して作用していることを示唆しており、今後の研究の方向性を決定づける上で極めて重要であると考えられる。 上記の事項より、研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
来年度以降は、当初の計画通り、以下の解析を行う 1.植物ステロイドホルモンが作用する脳神経回路の解明:植物ステロイドホルモンが脳のドーパミン作動性神経で、核受容体のHr38を活性化することで長期記憶形成を促進する可能性を見出しているので、これらの神経回路特異的にHr38をノックダウンして長期記憶形成への影響を検討する。 2.植物ステロイドホルモンが制御する分子カスケードの解明:植物ステロイドホルモンは転写因子であるHr38を介して遺伝子発現を制御することで長期記憶を誘発していると考えられる。そこで本研究ではHr38によって制御される遺伝子をRNA-Seqによって同定し、長期記憶における役割を明らかにする。 3.植物ステロイドホルモンのHr38による受容機構:Hr38にコファクターがあり、これがHr38の様々なステロイドホルモンとの結合能を付与している可能性がある。このコファクターをMass spectrometryによって同定し、植物ステロイドホルモンによってHr38が活性化される分子機構を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
予算が足りなくなることが予測され、70万円を前倒し請求(後期分)したが、研究費の配分が遅く、配分されたときには学内の当該年度の予算使用締め切りになってしまい、十分に使用する期間がなかった。また、他の予算(大学の公費)が残っていたこと、予想よりも予算が不足しなかったことから、結果的に前倒し請求した分が次年度使用額となってしまった。 R3年度の分を前倒し請求した分が結果的に次年度使用となったことから、R3年度の予算額は当初の予算額と大きく変わらない額となったため、当初の計画通りに研究を進めることが出来ることとなった。よって使用計画については大きな変更はしない予定である。
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