研究課題/領域番号 |
20K21310
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
吉岡 博文 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (30240245)
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研究分担者 |
近藤 竜彦 名古屋大学, 生命農学研究科, 講師 (30362289)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | 植物免疫 / 害虫抵抗性 / MAPキナーゼ |
研究実績の概要 |
ニジュウヤホシテントウによって加害されたベンサミアナタバコ葉では、抵抗性が誘導される。ベンサミアナタバコ葉のMAPKを一過的にサイレンシングしたところ、ニジュウヤホシテントウは本来食べることのできないベンサミアナを激しく加害した。さらに、MAPKバイオセンサーを開発し、時空間的にMAPKの活性化動向を観察した結果、加害部からMAPK活性を示すFRET蛍光が拡散する様子が観察された。この結果は、植物が免疫シグナルを細胞間で移行させ、集団協調的な生体防御機構を備えていることを示している。本研究では、MAPK活性の拡散を阻害する病原菌のエフェクター遺伝子を網羅的に解析する。一過的にエフェクターとMAPKセンサーを導入した葉にニジュウヤホシテントウを放飼し、あるいはニジュウヤホシテントウから精製したHAMPでFRET蛍光を観察してシグナルの拡散を抑制するエフェクター遺伝子をスクリーニングする。 ジャガイモ疫病菌は、約200のエフェクターを分泌してナス科植物の様々なシグナル伝達因子を抑制することで感染を支えていることが解ってきた。まず、これらエフェクター遺伝子の配列を委託で合成し、相同組換えによって植物遺伝子導入ベクターに全てのエフェクター遺伝子を含むエフェクターライブラリーを構築する。それぞれのエフェクター遺伝子で形質転換したアグロバクテリウムと、MAPKセンサーで形質転換したアグロバクテリウムとを混合し、ベンサミアナ葉内に注入する。このように、一過的にエフェクターとMAPKセンサーを導入した葉にニジュウヤホシテントウを放飼し、あるいはHAMPで処理し、蛍光顕微鏡下でFRET蛍光を観察してシグナルの拡散を抑制するエフェクター遺伝子をスクリーニングした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ジャガイモ疫病菌 (Phytophthora infestans) はジャガイモ疫病の原因菌であり、半活物寄生的な感染様式を示す。ジャガイモ疫病菌は植物への感染時に、200種以上のエフェクターと呼ばれるタンパク質を分泌し、植物の免疫機構を抑制すると考えられている。このようなエフェクターの中には、食害を受けた細胞の隣接細胞におけるMAPKの活性化を抑制するものが含まれると予想される。ニジュウヤホシテントウの食害による隣接細胞への時空間的MAPKの活性化を、傷害処理とHAMPの同時処理によって模倣することができた。このシステムを用いることで、隣接細胞のMAPKの活性化を抑制するジャガイモ疫病菌エフェクターを探索することが可能となる。 エフェクターの分泌シグナルペプチドを排し、過剰発現型バイナリーベクターに導入した。そのプラスミドを導入したアグロバクテリウムと、細胞質局在型MAPKセンサーを発現するアグロバクテリウムのそれぞれの菌液を混合し、ベンサミアナ葉に一過的に導入した。そのベンサミアナ葉にHAMPを滴下し、その上からパターンホイールで傷害処理した。MAPKセンサーを用いた対照区では、傷害処理部から周辺の細胞へFRET蛍光の拡散が確認された。一方、各種エフェクターを導入した場合、5つのエフェクターを発現させた区においてFRET蛍光の拡散が抑制された。これら得られた5つのうち2つのエフェクターを用いて、酵母ツーハイブリッド法によってエフェクターのベンサミアナタバコにおけるターゲット因子を探索した。しかし、現在までにシグナル伝達に関わると思われる因子が得られていない。
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今後の研究の推進方策 |
得られた5つのエフェクターのうち、2つのエフェクターを用いて標的とするベンサミアナタバコ因子を酵母ツーハイブリッド法によって探索したが、良好な結果は得られていない。今後の方針として、引き続き残りの3つのエフェクターに対するターゲット因子を獲得する。さらに、まだ用いていないジャガイモ疫病菌のエフェクターをクローニングする。これら新たなエフェクターをアグロバクテリウムに導入し、細胞質局在型MAPKセンサー遺伝子を組換えたベンサミアナタバコ葉で発現させる。そのベンサミアナ葉にHAMPを滴下し、その上からパターンホイールで傷害処理する。このように、食害を受けた細胞の隣接細胞におけるMAPKの活性化を抑制するエフェクターを探索し、酵母ツーハイブリッド法によってエフェクターのベンサミアナタバコにおけるターゲット因子を獲得する。 ターゲット因子が得られた場合、この遺伝子をサイレンシングしたベンサミアナタバコ葉において、食害またはHAMPに対してMAPKバイオセンサーに由来するFRET蛍光を観察する。有意にFRET蛍光の細胞間移行シグナルが抑制された場合、そのターゲット因子はMAPK活性の細胞間移行を担うものと思われる。これらの結果を踏まえて、植物免疫シグナルの細胞間移行機構の分子基盤を築く。
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次年度使用額が生じた理由 |
得られた5つのエフェクターのうち、2つのエフェクターを用いて標的とするベンサミアナタバコ因子を酵母ツーハイブリッド法によって探索したが、良好な結果は得られていない。今後の方針として、引き続き残りの3つのエフェクターに対するターゲット因子を獲得する。さらに、まだ用いていないジャガイモ疫病菌のエフェクターをクローニングする。これら新たなエフェクターをアグロバクテリウムに導入し、細胞質局在型MAPKセンサー遺伝子を組換えたベンサミアナタバコ葉で発現させる。そのベンサミアナ葉にHAMPを滴下し、その上からパターンホイールで傷害処理する。このように、食害を受けた細胞の隣接細胞におけるMAPKの活性化を抑制するエフェクターを探索し、酵母ツーハイブリッド法によってエフェクターのベンサミアナタバコにおけるターゲット因子を獲得する。 以上のように、新規エフェクターのクローニングや酵母ツーハイブリッド法を行うため、次年度においても資金の必要が生じた。順次、研究計画どおりに関連のキット、試薬等を購入する予定である。
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