ジャガイモ疫病菌 (Phytophthora infestans) はジャガイモ疫病の原因菌であり、半活物寄生的な感染様式を示す。ジャガイモ疫病菌は植物への感染時に、200種以上のエフェクターと呼ばれるタンパク質を分泌し、植物の免疫機構を抑制すると考えられている。このようなエフェクターの中には、隣接細胞のMAPKの活性化を抑制するものが含まれると考えた。ニジュウヤホシテントウの食害による隣接細胞への時空間的MAPKの活性化を、傷害処理とHAMPの同時処理によって模倣することができた。このシステムを用いることで、隣接細胞のMAPKの活性化を抑制するジャガイモ疫病菌エフェクターを探索することが可能になると考えた。 エフェクターのシグナルペプチドを排し、過剰発現型バイナリーベクターに導入し、そのプラスミドをアグロバクテリウムに導入した。エフェクターを発現するアグロバクテリウムと、細胞質局在型MAPKセンサーを発現するアグロバクテリウムのそれぞれの菌液を混合し、ベンサミアナ葉に一過的に導入した。そのベンサミアナ葉にHAMPを滴下し、その上からパターンホイールで傷害処理した。MAPKセンサーを用いた対照区では、傷害処理部から周辺の細胞へFRET蛍光の拡散が確認された。一方、各種エフェクターを導入した場合、5つのエフェクターを発現させた区においてFRET蛍光の拡散が抑制された。 これらエフェクターにGFPを連結して、その局在について顕微鏡下で観察した。その結果、いずれも原形質膜近傍に存在することが示された。そこで、これら5つのエフェクターの植物相互作用因子を探索する目的でY2Hを試みた。しかしながら、これらエフェクターを形質転換した酵母細胞の増殖能が著しく阻害された結果、Y2Hの結果が得られることはなかった。今後は、免疫沈降など、他の手法を用いて候補エフェクターの標的因子を探索する予定である。
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