研究課題/領域番号 |
20K21317
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研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
岡本 龍史 東京都立大学, 理学研究科, 教授 (50285095)
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研究分担者 |
石井 孝佳 鳥取大学, 乾燥地研究センター, 講師 (80823880)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | 交雑 / C4型光合成 / コムギ / トウモロコシ / イネ / in vitro 受精 / 細胞質ゲノム / 核ゲノム |
研究実績の概要 |
交雑細胞内では異なる二つの種に由来する核ゲノムと細胞内小器官が一つの細胞内に共存することになり、通常このような状態を維持したままその細胞が増殖することはなく、ゲノム(染色体)や細胞内小器官の脱落が生じる。これにより細胞の恒常性が失われ、異種交雑細胞由来の個体の創出には至らない場合が大半であるが、このゲノムや細胞内小器官の脱落機構を制御することができれば、目的に沿ったゲノムと細胞内小器官のみを交雑細胞内に残存させることが可能となる。本研究では、C4型光合成を行うトウモロコシとC3型光合成を行うコムギまたはイネの配偶子を任意の組み合わせでin vitro受精させることで、様々な組み合わせの交雑受精卵を作出し、それら交雑受精卵の発生過程で生じるゲノムや細胞内小器官の脱落機構を解明することを第一の目的とする。さらにはその脱落機構を制御することで、トウモロコシの細胞質・細胞内小器官とコムギの核からなるコムギ核C4光合成細胞質置換植物や、イネ核C4光合成細胞質置換植物の創出に向けて研究を遂行する。 今年度は、遠縁雑種受精卵の作出および発生解析系の確立に向けて、コムギおよびイネのin vitro受精系を用いて異種配偶子を様々な組み合わせで電気的に融合させることで多様なコムギ-イネ雑種受精卵を作製し、それらの発生プロファイルを解析した。その結果、交雑不全を克服し、交雑受精卵が植物体にまで発生する異種配偶子の組み合わせを見出した。それら交雑植物はほぼコムギの形態を示したが、作出した交雑植物体の約2割が矮性形質など多様な草型形質を示した。また、それら植物のフローサイトメトリー解析からイネ染色体・ゲノムが脱落していると推定された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
イネ卵細胞とコムギ精細胞を融合させて作出したイネ-コムギ交雑受精卵(RW受精卵)は分裂・初期発生を進めたが、球状様胚のステージで発生が停止した。一方、雌雄を逆にして作出したコムギ-イネ受精卵(WR受精卵)では核合一は進行したが第一分裂をせず、1細胞ステージで発生が停止した。このように、RW受精卵およびWR受精卵の双方で受精卵発生の停止(不全)が観察されたので、まずRW受精卵の発生不全現象に関する解析を進めた。RW初期胚細胞中におけるイネおよびコムギゲノムの存在様態をFISHおよびGISH解析により調べたところ、交雑胚細胞中ではイネ染色体のほとんどが脱落しており、また、イネ染色体由来のmicronucleus が核周辺部に観察されたされた。一方、コムギの染色体は核内に安定して存在していた。これらのことから、RW初期胚の発生不全はコムギ核-イネ細胞質間における異種間不全に起因することが示唆された。このことから、RW受精卵にさらにコムギ卵細胞を融合させたRW-R受精卵を作出したところ、植物体にまで発生・再分化した。この再分化個体は基本的にコムギの形態を示したが、由来する受精卵により矮性形質など多様な草型形質が確認されたことから、再生植物体はイネ染色体・ゲノムの一部を保持している可能性が考えられた。 一方、WR受精卵では核融合は進行したが第一分裂に至らなかったことから、受精卵(融合コムギ卵細胞)の活性化が十分に進行していないことが推定された。このことから、2倍体イネ精細胞を4倍体イネから単離し、コムギ卵細胞と受精させて2WR受精卵を作出したところ、それらは植物体にまで発生・再分化した。この再分化個体もほぼコムギ様の形態を示し、半数体コムギとほぼ同程度の核内ゲノム量を保持していた。また、FISH解析を進めたところ、イネゲノムの脱落が確認された。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度の研究により、電気融合させるイネ配偶子とコムギ配偶子の組み合わせにより、コムギ-イネ交雑受精卵の発生不全を克服することができることが示された。さらには、このコムギ-イネ交雑受精卵の初期発生過程でイネゲノムの脱落が生じること、および、一部イネゲノム断片がコムギゲノムに挿入されることが示唆された。 次年度は、ゲノムシークエンス解析を進めることでそれら植物体の核および細胞質ゲノムの組成を明らかにする。さらには、それらコムギ-イネ交雑植物体の耐乾性、耐湿性などについての形質評価を進めることで、挿入イネゲノム断片と形質発現の関係性についての解析も進める。 上の解析に加え、次年度からはC4植物であるトウモロコシの配偶子を用いた解析をスタートさせる。具体的には、多様なトウモロコシ-イネ異質倍数性受精卵およびトウモロコシ-コムギ異質倍数性受精卵を作出し、それらの発生プロファイルを解析することで、発生不全を示す異種配偶子の組み合わせおよびその発生不全を克服する配偶子の組み合わせを決定する。その後、発生不全を示す交雑胚および発生する交雑胚のトランスリプトーム解析を進めることで、ゲノム脱落機構への知見を得る。さらに、得られた交雑植物体のゲノムシークエンス解析を行うことで当該植物がトウモロコシC4ゲノムを保持しているのか、あるいは脱落してしまっているのかを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度に購入予定であった分子生物学用試薬の購入、および2020年度に予定していたゲノム配列解析を次年度に行うこととしたため。
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