植物の葉では、その展開後に、光合成を担うオルガネラである葉緑体が分解されることで光合成効率が徐々に減衰していく。本研究では、この分解現象を特定の時期や部位を狙ってとめる、あるいは遅らせることによって光合成産物を増加させる技術の開発につなげるため、葉緑体の分解現象を抑制する小分子化合物の開発に挑戦した。具体的には、葉の老化過程で優先的に起こる葉緑体オートファジー経路(葉緑体を部分的に分解する経路)を抑制する化合物をまず化合物ライブラリーから選抜し、その中から低濃度で効果を発揮する小分子の選抜、改変を行った。本年度は、昨年度にシロイヌナズナの葉の顕微鏡観察系を用いて化合物ライブラリーから選抜したヒット化合物群を対象に、再現性・濃度依存性の評価を行い、比較的低い1μM以下の濃度で安定して阻害活性を持つ化合物12種を絞り込んだ。そのうちの一種については構造展開を行い、阻害活性に特に重要な構造に関する情報を得た。これら化合物がイネにおいても効果を持つか調査したが、硬いイネの葉では化合物溶液の湿潤効率が極めて低く、かつ不均一であることから、顕微鏡による活性評価を安定して行うことが難しいと判断した。そこで顕微鏡観察に頼らない、特に生化学的なタンパク質解析から葉緑体分解の活性を評価する系を構築するため、葉緑体に移行する蛍光タンパク質を安定発現する系統の選抜・整備を行った。また、イネ以外の作物で安定な解析が行えるかを評価するため、蛍光小分子を用いることで複数の作物種で葉への溶液湿潤効率を評価した。そしてコムギやトマトといった植物種では安定して葉の内部に小分子化合物を湿潤可能であることを確認できた。
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