近年、様々な生分解性素材が注目されているが、その一つとして3-ヒドロキシ酪酸のポリエステルであるポリヒドロキシ酪酸(PHB)が注目されている。また、PHBと類似の構造をもつ3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート重合体(PHBH)は、既に実用化されており、石油系プラスチックを用いた一部の製品を置き換えるものとして期待されている。 本研究では、海砂からPHBを唯一炭素源として増殖可能な真菌SEA-51株を単離した。本菌は、これまでにPHB分解能をもつことが知られていないVerticillium様菌類に属するものであった。SEA-51株は、グルコースを唯一炭素源とした培地でも増殖可能であったが、PHBを炭素源とした場合に限り、その培養液上清にPHB分解酵素が分泌されることが分かった。PHBを含むアクリルアミドゲルを用いて分解酵素活性を調べた結果、約130 kDaのタンパク質がPHB分解酵素であることが示唆された。一方、培養液を加熱すると、このタンパク質のバンドは消失し、新たに約40 kDaと38 kDaの2つのバンドが出現した。これらのタンパク質のN末端配列解析を行った結果、互いに異なるタンパク質であった。さらに、SEA-51株のトランスクリプトーム解析を行い、該当するタンパク質をコードする各遺伝子をクローニングした。次いで、昆虫細胞を用いて各タンパク質の分泌生産に成功した。精製酵素を用いてPHB分解能を調べた結果、約40 kDaのタンパク質が分解活性をもつことが分かった。本酵素は、PHBHも分解可能であり、単量体では活性を示さないが、多量体(3または4量体)を形成することで、酵素活性が発現することを明らかにした。以上、本研究の遂行により、PHBやPHBHの効率的な分解に寄与する新規酵素の同定と有用酵素の大量発現系の構築に成功した。
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