森林の土壌中に存在する菌根菌の埋土胞子は、撹乱後に侵入する樹木実生の菌根形成を促進し、その定着を助ける重要な働きを持つ。一部の菌種、特にマツ科に特異的に共生するショウロ類の埋土胞子は少なくとも10年程度は共生能力を維持することが明らかになっているが、それを超えた超長期間の生存能力については不明である。そこで本研究では、数十年から数百年前の堆積物が保存されている地質ボーリングコアに着目した。特に海岸後背湿地のボーリングコアには津波堆積物が保存されており、海岸クロマツ林由来の菌根菌の埋土胞子が含まれている可能性がある。本研究では、これら地質試料中の埋土胞子の感染能力について、マツ苗を用いたバイオアッセイ試験によって調べ、菌根菌埋土胞子の超長期間の休眠能力を明らかにすることを目的とする。 今年度は過去の津波堆積物が確認されている地質ボーリングコア中の土壌を用いて菌根菌のバイオアッセイ実験を実施した。その結果、2011年の東北地方太平洋沖地震による津波堆積物やその上部の土層では外生菌根の感染が確認され、それらはショウロ属やヌメリイグチ属であることがDNA解析によって明らかにされた。一方、それよりも昔の津波堆積物等からは外生菌根菌の感染は確認できなかった。これらの結果から、検出された菌種の胞子については少なくとも十年以上は土壌中で感染性が維持されたまま生存していることが明らかとなった。しかし、それよりも過去の津波堆積物層などでは菌根菌の感染が確認できなかったことから数百年単位の生存は難しいと考えられる。
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