本研究は、辺材年輪数が大きく異なるスギ等の個体を選抜し、それらから得られた寿命が大きく異なる放射柔細胞について、分化開始から死に至るまでの期間を相対的に分割したものについて比較解析をそれぞれ行い、共通した変化を抽出することで放射柔細胞の老化に特徴的な変化を明らかにし、放射柔細胞の細胞死制御機構を解明するものである。新型コロナ感染症の影響で前年度まで試料の採取が叶わなかったが、本年度において試料の採取を行った。辺材年輪数が大きく異なるスギ試料を用いて、第一段階として放射柔細胞の生存率の推移について比較を行った。今回用いた辺材年輪数が大きく異なる試料は肥大成長速度(直近5年の年輪幅)も大きく異なっていた。形成層を0、心材1年輪目を100とした辺材内での相対距離による生存率推移のグラフを作成し、成長が良い群(辺材年輪数が22年から26年)と悪い群(辺材年輪数が45年から69年)で比較を行った結果、成長の良い群の方が生存率の低下が早く起こることが示された。また、成長の良い群と悪い群それぞれの平均値によるグラフ比較を行った結果、成長の良い群は生存率の推移が緩やかに起こり、成長の悪い群はより急激に起こっていることが明らかになった。また、デンプン粒観察の結果、全サンプルで1年輪早材部から移行材まで多くのデンプンが観察された。相違点として、成長の良い群では移行材の前半部で生細胞中のデンプン量は減少しているのに対し、成長の悪い群では移行材前半で生細胞内のデンプン量は変わらず、辺心材境界の近くでデンプン粒の量が急速に減少した。以上の結果より、スギの成長の悪い個体は成長の良い個体よりも辺心材境界近くまで放射柔細胞の生存率やデンプン貯蔵機能を保つと考えられる。放射柔細胞の老化に特徴的な変化を抽出するまでに至らなかったが、放射柔細胞の細胞死制御機構について新たな知見を得ることにつながった。
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