研究実績の概要 |
魚類内耳に存在する耳石は、体成長と共に環境水中あるいは生体内の元素を取り込みながら層状に成長する特性を持つことから、個体が過去に経験した環境推定の手がかりになると期待される。本研究では、耳石を用いた魚類の環境ストレス暴露評価技術の確立を目指し、トウゴロウイワシ類の耳石に蓄積される各種微量元素量の変動と環境汚染物質量との因果関係を調査することを最終目標とした。本年度は、環境汚染物質として、現在は世界各国で使用が禁止されているものの、未だ水圏環境中にその存在が確認される塩化トリブチルスズ(TBT:昨年度からの継続調査)と、近年プラスチック製品の劣化防止として広く使用されている紫外線吸収剤UV-Pを用いた。11日齢のぺへレイ稚魚を2 Lビーカーに収容し、7日間塩化トリブチルスズ溶液(0、0.5、1.5 μg/L)とUV-P溶液(0、0.15、10 μg/L)にそれぞれ曝露した。曝露期間終了後、汚染物資を含まない飼育水にて一定期間飼育し、サンプリングを行った。サンプリングした供試魚から耳石を取り出し、輪紋解析および電子線プローブマイクロアナライザー(EPMA)を用いて各種微量元素の定量分析を行った。TBTおよびUV-Pを用いた曝露試験において、各濃度区における試験終了後の生残率は100%、奇形率は0%であった。EPMAを用いた定量分析の結果、TBT暴露試験区では、CaおよびCには変動は認められなかったが、KおよびNaにおいて濃度依存的な上昇傾向が認められた。一方、UV-Pを用いた曝露試験では、TBT暴露試験区と同様に、Ca, Cには変動は認められなかったが、KおよびNaでは濃度依存的な減少傾向が認められた。以上の結果より、環境汚染物質の種類によって、耳石微量元素の変動パターンに特徴がある可能性が示唆された。
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