今年度は下記3項目について研究を実施した。1) 現場観測手法の高度化:魚種確認に使用する水中カメラはCTDロガーと一体化して撮影深度と物理環境を同時観測し,エコーデータとの詳細な比較を可能とした。魚探は下向きの幅の狭い音響ビームを使用するため,魚群全体の形状が把握できない。そこで,左右に120度の観測範囲を持つマルチビームソナーを導入し,魚探とマルチビームソナーの送受波器を一体化して同一魚群を同時観測できるよう高度化し,その有用性を確かめた。2) 魚群特徴量の解析:タクチイワシまたはクラゲ類であることを確認・推測したエコーを解析し,魚群特徴量としてエコー強度スペクトルとエコー強度の変動スペクトルを調べた。エコー強度スペクトルの形状に違いはないが,カタクチイワシの変動スペクトルはクラゲ類よりも周波数依存性が高いことがわかった。カタクチイワシのエコー強度の姿勢依存性が高いことに起因すると考えられ,魚種判別に有用な情報となることが示唆された。3) エコー解析方法の高度化:観測海域の主要種であるカタクチイワシのエコー強度スペクトルを正確に測定するため,エコー解析時に設定するフーリエ変換の適切な窓サイズをシミュレーションと実データから検討し,0.2 mが妥当であることを明らかにした。 本研究では,高分解能魚群探知機の使用することにより,魚群の特徴量としてエコーエンベロープ波形の振幅スペクトル,エコー強度スペクトル,エコー強度の変動スペクトル,魚群形態を抽出可能とした。これらは魚種判別に有用な情報として使用できる。魚群内部の個々の魚まで観測可能としたが,生物の密集具合によっては難しいことも明らかとなった。また,魚群形態情報を使用し,教師なし機械学習(k-means)による魚群エコーのクラスタリングを行ったが,本研究で得た魚群形態情報からは適切なクラスター数の決定には至らなかった。
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