研究課題
脊椎動物の骨や歯の硬組織はリン酸塩を主成分とし、数%の炭酸基を含んでいる。これを構造炭酸塩と呼び、構造炭酸塩の酸素安定同位体比は、変温動物であれば生息環境の温度や環境水を、恒温動物であれば体温や環境水を記録するので、その積極的な活用が可能になれば新たな生態情報の抽出が実現できる。しかしながら、魚類硬組織の多くは分析可能重量を満たせないために、これまでは同位体温度計の検証の術がなく、安定同位体比を活用したアプローチが実現できていなかった。本研究では、魚類硬組織(骨・歯など)の構造炭酸塩の同位体比分析のための前処理法・分析法を検討し、炭素・酸素同位体比情報の環境・生態指標としての有効性を検討する。2022年度は、4温度区で飼育実験を実施したマサバ個体について、脊椎骨・中骨・尾びれの骨の炭素・酸素安定同位体比分析を実施した。3か所の部位について、いずれも飼育水温と骨格の酸素同位体比には有意な水温依存性が確認された。また、酸素同位体ー水温関係式は、部位によってオフセットがあり、環境復元の際には注意が必要である。また、炭素同位体比は温度との相関は弱く、脊椎骨と中骨が近い値を示し、尾びれは2-3‰程度それらよりも高い値を示した。本研究課題のまとめとして、魚類の骨試料の前処理方法や分析手法を検討し、さらに、これまで報告例に乏しい魚類の骨の構造炭酸塩の炭素・酸素同位体比を明らかにした。酸素同位体比は温度依存性が確認でき、環境指標として骨の構造炭酸塩を活用できるポテンシャルがあることを提示できた。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件) 備考 (2件)
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