現代農業ではマルチ用フィルム類,園芸ポット・トレイ,サイレージラップ等,プラスチック資材が多用されている。環境中でプラスチックは光分解等により劣化し、<5mmの小破片,いわゆるマイクロプラスチック(MPs)となる。さらに回収を前提としないMPs製品に被覆肥料があり,特に水田に施用された場合,その樹脂製外殻が流出して海洋のMPs汚染の原因となっている。こうした背景を踏まえ,本課題はMPsの環境動態や劣化過程を知ることを目的に以下の研究を行った。 [農耕地土壌からのMPs抽出法の開発]MPsを簡便かつ経済的に土壌から抽出する方法を検討した。その結果,キャノーラ油を用いた油分離法で低密度ポリエチレン(LDPE)とポリプロピレンの添加回収率が>90%以上,ポリ塩化ビニルが>75%となり,飽和NaCl溶液を用いた密度分離より良好となった。 [湛水土壌条件下での被覆肥料外殻の経時変化]市販PE系被覆肥料の試験水田への施用試験と恒温器を用いた保温静置試験を行い,湛水土壌中での被覆肥料外殻の外観と化学構造の経時変化を調べた。360日間の試験で外殻は白色から黄色~黄褐色へと変化し,表面への酸化鉄の付着や添加物であるタルクの溶出が認められた。IRスペクトルから,外殻の主成分であるPEにOH基やC=O基が生成し,樹脂の化学的劣化が徐々に進行することが確認された。 [新潟市内海岸における被覆肥料外殻の漂着量]新潟県は日本有数の稲作地帯であるが,水田に施用された被覆肥料外殻がどの程度海洋へ流出しているのかは不明である。ここではその一端の解明のため,2022年4~10月に新潟市内の海岸10か所で被覆肥料外殻の漂着量を調査した。その結果,4月には被覆肥料外殻はほとんどなかったが,5月から計数され始め,7月初頭に最大値を示した。樹脂種類としてはPE系とポリウレタン系の2種類存在し,全地点で前者の量が多かった。
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