研究課題
ワクモ(鳥類の外部寄生虫)による吸血被害は、世界中の養鶏場で深刻な問題となっている。最近では薬剤に耐性を示すワクモの出現により、現行の薬剤による防除では制御が困難になりつつある。薬剤に変わる新規防除法としてワクチンが注目されている。本ワクチンは、ワクモの生理機能に重要な分子を抗原として免疫し、血液に含まれる抗体を吸血したワクモに致死的影響を与えることを作用機序とする。そのため腸管の細胞膜上に発現するタンパク質は最も影響を受けやすいと考えられる。しかしそれらの多くは、複数回膜貫通型の分子や、大きな細胞膜領域を持つ分子であり、組換えタンパク質の作製には困難が予想される。そこで本研究では、ウイルスベクターを用いて、ワクチン抗原を組換えウイルス感染細胞に細胞膜タンパク質として発現させることで、ワクチン効果に有効な免疫応答を誘導すること目的とした。昨年度は組換えウイルスゲノムに挿入するための複数のワクチン抗原候補からadipocyte plasma membrane-associated protein (APMAP)を選抜した。本年度は、ウイルスベクターとして利用するマレック病ウイルスのゲノム中における抗原遺伝子の適した挿入部位として5箇所の領域を検討した。抗原遺伝子の挿入部位として、UL45-UL46のintergenic region、4つのウイルス遺伝子 (meq, glycoprotein B, glycoprotein D, thymidine kinase) との置換を検討した。その結果、UL45-UL46への挿入ではウイルスの再構成が認められなかったが、ウイルス遺伝子との置換に関してはウイルスの再構成に成功した。しかしウイルス遺伝子との置換では、挿入した抗原の発現量が低く、より有効な免疫応答を誘導するためには、ウイルスゲノムのさらなる改変が必要であった。
2: おおむね順調に進展している
本研究は組換えタンパク質の作製が困難な細胞膜タンパク質をワクチン抗原の標的とし、ウイルスベクターを用いることで感染細胞上に細胞膜タンパク質として発現させ、ワクチン効果に有効な免疫応答を誘導すること目的としている。昨年度は、細胞膜上に発現が予想される分子の中で、本研究の趣旨に合致する組換えタンパク質としてAPMAPを選抜した。RNA-Seq解析データによるとAPMAPの発現強度は膜発現タンパク質の中では高値を示し、腸管における遺伝子発現も認められている。本年度は、APAMPをワクチン抗原遺伝子として挿入するためのウイルスゲノム中の挿入部位の検討を行った。本研究では、ウイルスベクターとして弱毒化マレック病ウイルスを用いる。抗原遺伝子の挿入部位としては、ウイルスの複製に影響しない領域が必要となる。そこで、UL45-UL46のintergenic regionへの挿入、meq、glycoprotein B、glycoprotein D、thymidine kinase遺伝子との置換について検証した。Intergenic regionへの挿入ではウイルスの再構成が認められなかったが、各ウイルス遺伝子との置換ではいずれもウイルスの再構成が認められた。また、各組換えウイルスはin vitroにおいては、一部ウイルス増殖能が劣るウイルスもあったが、元株と比べてウイルス増殖能に大きな差は認められなかった。また、各組換えウイルス感染細胞において、RT-PCRによって抗原遺伝子の発現は認められた。しかし抗原タンパク質の発現量は低く、鶏に免疫を行った場合においても有効な抗体価の上昇は認められなかった。そのため、さらなる抗原遺伝子の挿入部位として適した領域の検索、あるいは異なるマレック病生ワクチンの応用等、ベクター側の改変が必要であった。
今後はマレック病生ワクチンを用いたAPMAP挿入組換えウイルスの作製を行い、鶏に免疫を行ったうえで抗ワクモ効果について検討を行う。ウイルスベクターとして、マレック病ウイルス(MDV)の弱毒生ワクチンを用いているが、免疫鶏の抗体価を上昇させるために、抗原の発現量を増加させる必要がある。そのため、再構成された組換えウイルスゲノム中にCMVプロモーターの挿入を行う。CMVプロモーターを挿入した後に、挿入部位や変異の有無について、PCR、RFLPおよび塩基配列解析により確認する。得られた感染性クローンプラスミドよりCMVプローモーター制御のAPMAP発現組換えMDVを再構成し、in vitroにおけるウイルス性状を解析する。元株との増殖能をqPCRにより比較し、ウェスタンブロットによる感染細胞におけるAPMAPの発現、さらに膜上におけるAPMAPの発現をフローサイトメトリーにより検討する。また、並行して同じくマレック病の発症予防に利用される七面鳥ヘルペスウイルスの感染性クローンプラスミドの作製とウイルスベクターとしての利用についても検討する。次にAPMAP挿入組換えMDVを初生ヒナに免疫し、MD予防効果および抗ワクモ効果を検証する。MD発症予防効果は、免疫後にMDV強毒株を接種し、臨床症状や腫瘍形成率より評価を行う。抗ワクモ効果については、観察期間終了後に免疫鶏より血漿を回収し、人工吸血装置を用いて免疫血漿をワクモに吸血させ、死亡率と繁殖効率における影響を解析することで評価する。また、免疫血漿中におけるAPMAPに対する抗体価測定や特異抗体の産生について、ELISAおよびウェスタンブロットにより検討する。以上より、組換えタンパク質としての発現が困難な構造を持つ膜タンパク質のワクチン抗原としての応用について検討する。
(理由) 今年度は本研究で用いるウイルスベクターにおけるワクチン抗原遺伝子の挿入部位について検討を行った。5箇所について検討を行ったが、再構成された組換えウイルス感染細胞中における抗原の発現量が低かったため、ベクター側にさらなる改変が必要であった。昨年度は探索を行った抗原候補のうち、APMAPが本研究に適していると考えられ、APMAPを基軸として今後の研究を進める予定である。しかし、次年度以降も応用の可能性を広げるため、継続的に抗原検索を行うことに加え、ウイルスベクターのゲノムにおける挿入部位として適した他の領域についても検討を続ける。そのために必要な経費として、一般試薬・消耗品、分子生物学用試薬、シークエンス用試薬の一部を次年度の仕様とした。(使用計画) 引き続き本研究に適した抗原検索とウイルスベクターの挿入部位の検討を継続的に行うために、次年度使用額のうち、約5万円については分子生物学用試薬、約6万円についてはシークエンス用試薬に使用する。
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