研究課題/領域番号 |
20K21358
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
中尾 亮 北海道大学, 獣医学研究院, 准教授 (50633955)
|
研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
|
キーワード | 選択的ゲノム増幅法 / 節足動物 / マダニ / ミトゲノム / SWGA |
研究実績の概要 |
塩基配列データベース上で公開されている4属4種(Amblyomma sculptum、Dermacentor nitens、Ixodes pavlovskyi、Ornithodoros moubata)のマダニミトコンドリアゲノム(ミトゲノム)の配列をもとに、ミトゲノム特異的増幅プライマーの候補を得た。15属67種のマダニミトゲノム101配列に対して相同配列の有無を確認することで、プライマーの網羅性を検証した。さらに、Ixodes scapularisのドラフトゲノム配列を用い、各プライマー候補のマダニ核配列とミトゲノム配列での出現頻度の比を算出し、最終的に3種類のプライマーセットを選定した。各プライマーセットを用い鎖置換型DNA合成酵素(Phi29)による増幅反応(SWGA: selective whole genome amplification)系を構築した。ミトゲノム増幅率はミトコンドリア16S rDNAと核18S rDNAを標的としたPCRで評価した。また、増幅産物はIllumina MiSeqによるショットガン解析に用い、得られた全配列に対するミトゲノム由来配列の割合を求めた。国内の6種のマダニ(Dermacentor taiwanensis、Haemaphysalis japonica、Ixodes ovatus、Amblyomma testudinarium、Argas japonica、O. moubata)由来DNAを用いた試験では、全ての検体でミトゲノム由来配列の割合が増加した。すなわち、マダニDNAを直接解読した場合、得られる配列のうち約0.01~0.21%がミトゲノム由来であるが、SWGA産物を解読した場合、全体の約24~96%がミトゲノム由来配列となった。以上のことから、マダニのミトゲノム配列を効率的に解読できる手法の確立に成功した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
マダニのミトゲノム配列を効率的に増幅する手法の開発に成功した。マダニはゲノムサイズが大きいため、そのミトゲノム完全長を解読するためには、これまでは膨大なデータが必要となり、解析が進んでいなかった。今年度開発したSWGA法を応用することで、マダニから抽出したDNA中のミトゲノムの割合を著しく増加させることができるため、ミトゲノム完全長の解読に必要なデータ量が格段に少なくなった。このことにより、1検体当たりの解析コストの低下に加え、全データ中のミトゲノム以外の配列の割合が減少したことから、配列解析(de novoアセンブリ等)がよりスムーズに実施可能となり、新規のミトゲノムの構築にも有用であった。 ミトゲノムのアノテーションに関して、クイーンズランド大学Stephen Barker博士の協力を得て、共同で実施できる体制を構築できた。これまでに開発されたミトゲノムアノテーションソフトウェアでは、マダニのミトゲノムのアノテーション精度は低かった。このため、ソフトウェアから得られた結果を近縁マダニ種のアノテーション情報との比較等によりさらに修正する必要があり、アノテーションは非常に時間の要する過程であった。共同アノテーション体制を構築できたことで、研究の律速段階であるアノテーションに必要な時間が格段に短縮できることとなった。 以上のことから、研究は当初の計画以上に進展していると自己評価した。
|
今後の研究の推進方策 |
サンプルの収集: 研究立案段階では、国内外においてフィールドからのサンプル収集を計画した。しかしながら、新型コロナウイルス感染症の流行により、海外渡航や国内移動への制限が生じており、計画を修正する必要がある。今年度も、共同研究者への積極的な働きかけにより、すでに収集済みのサンプルの分与等を進めて、解析を実施する計画を立てる。 解析手法の改良: 昨年度に開発したSWGA法では、15属67種のマダニのミトゲノム情報をもとにプライマーセットを設計した。昨年度の研究で、新たに数十種のマダニのミトゲノムの構築に成功しており、それらの情報を加味して、最適プライマーの再設計を行う。実際、昨年度に開発したSWGA法では、ミトゲノムの選択的増幅がみられないマダニ種もあり、プライマー再設計により網羅性の高い手法の開発が期待できる。 マダニの集団遺伝構造の解析への応用: 家畜衛生および公衆衛生上の重要なマダニ種に対して、複数個体からミトゲノム情報を取得して、集団遺伝学的解析を実施する。それぞれの種についてミトゲノム配列に基づく系統分岐樹を作製するとともに、採集地点GPSとミトゲノムクラスタリング情報を比較し、集団遺伝構造と地理的情報の関連性を解析する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究立案段階では、国内外においてフィールドからのサンプル収集を計画した。しかしながら、新型コロナウイルス感染症の流行により、海外渡航や国内移動への制限が生じたため、ほとんどのサンプリング計画が中止となった。今後の使用計画としては、国内外の共同研究者から分与されるサンプルの輸送料とサンプル処理のための試薬代に充てる。また、SWGA法の開発が当初の予想以上にスムーズに達成できたことも、次年度使用額が生じた理由となるが、今年度SWGA法の改良のための試薬代として使用計画を立てている。
|