昨年度に開発したSWGA法では、データベース上の約70種のマダニのミトゲノム情報をもとにSWGAプライマーを設計した。今年度は、これまでに解読したミトゲノム情報を加味し、さらに3セットのSGWAプライマーセットを新たに設計した。本改良により、これまで増幅効率が低かったIxodes属マダニを含むほとんどのマダニ属でより選択性の高いミトゲノム増幅が確認できた。Phi29 DNAポリメラーゼと同様に、等温での鎖置換活性を持つことが報告されているFemtoPhi DNAポリメラーゼのSWGAへの応用性を評価した。しかしながら、供試したほとんどの検体でPhi29 DNAポリメラーゼに勝るミトゲノム増幅効率は得られなかった。 開発したSWGA法を用いて、本邦を含めた多数の地域に由来するマダニ種のミトゲノムを解読し、マダニの集団遺伝構造解析を行った。マラウイ共和国を中心としたアフリカ諸国で採集したAmblyomma variegatumを対象とした解析では、アフリカダニ熱の病原体であるRickettsia africaeと宿主マダニの系統分岐に相関がみられることが確認された。また、本邦由来のフタトゲチマダニ(Haemaphysalis longicornis)、タカサゴキララマダニ(Amblyomma testudinarium)、シュルツェマダニ(Ixodes persulcatus)を対象とした解析では、マダニの集団遺伝構造と地理的情報に相関がみられないことが示された。一方で、ヤマトチマダニ(Haemaphysalis japonica)では、主に本州由来の検体で構成されるクレードと、主に北海道由来の検体で構成されるクレードの2つの遺伝集団が存在する結果となり、同種のマダニでは北海道―本州間で地理隔離がおきていることが示唆された。
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