研究課題/領域番号 |
20K21359
|
研究機関 | 帯広畜産大学 |
研究代表者 |
西川 義文 帯広畜産大学, 原虫病研究センター, 教授 (90431395)
|
研究分担者 |
渡邉 謙一 帯広畜産大学, 畜産学部, 助教 (10761702)
|
研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
|
キーワード | 原虫 / ネオスポラ / ワクチン / ベクター |
研究実績の概要 |
免疫学の発展によりウイルスや細菌に対する各種ワクチンが開発されているが、原虫病に対するワクチン開発は困難を極めている。近年の遺伝子編集技術の開発・進歩により様々な生物種への遺伝子導入や遺伝子破壊が容易となり、原虫の研究分野においても遺伝子を欠損させることでその病原性を弱めることが可能となってきた。そこで本研究では我々が確立した遺伝子編集技術を基盤として、原虫独自の代謝経路と感染伝搬能力を欠損させた次世代のワクチン株を作出し、さらにそのワクチン株に異種抗原遺伝子を組み込んだ原虫ベクターワクチン株を開発することにより様々な難治性原虫病の制圧及び癌ワクチン開発を目指している。2021年度は以下の項目を明らかにした。 ネオスポラ感染に対するワクチン効果の検証:感染伝搬能力が欠損し潜伏感染できない原虫株 (NeoMD株)について、ワクチン株としての有効性の検証を行った。非妊娠マウスモデルを使用し、親株(Nc1株)とNeoMD株接種(10^5原虫)によるマウスの体重変動と臨床スコアを比較したところ、NeoMD株の病原性の低下が確認された。原虫株接種後45日目に攻撃試験を行いマウスの生存率を比較したところ、NeoMD株接種マウスの生存率の上昇が認められた。非妊娠雌マウスと雄マウスでNeoMD株の接種量(10^4原虫と10^5原虫)を検討したところ、10^4原虫接種でより効果的なワクチン効果を確認できた。妊娠マウスモデルでNeoMD株のワクチン効果を検証したところ、10^5原虫接種では攻撃試験による垂直感染を防御できなかったが、10^4原虫接種では有意に垂直感染を防御することができた(生後30日の新生マウス生存率、ワクチン非接種群:6.9%、NeoMD株接種群:75.0%)。以上の結果より、NeoMD株の生ワクチンとしての有効性が示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
増殖能力が欠損した原虫株(NeoUA株)を用いてマウスモデルにて病原性の解析を実施したが、親株(Nc1株)と比較してNeoUA株の病原性の低下を確認することができなかった。そこで、NeoUA株のin vitroでの増殖を再検証した。理論上UMP合成経路に関わるorotidine-5’-monophosphate decarboxylase (OMPDC)遺伝子を欠損させたNeoUA株はウラシル非存在下で増殖できないが、作製したNeoUA株では増殖を完全に止めることはできていなかった。したがって、現在、OMPDC欠損の新たな株の作製を進めている。 以上より、現在までの進捗状況は「やや遅れている」と判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
2022年度は以下の研究課題を実施する。 【増殖能力が欠損した原虫株(NeoUA株)の作出とネオスポラ感染に対するワクチン効果の検証】OMPDC欠損の新たな株を作製し、実験マウスへ感染させ病原性を解析する。次に病原性を示さなかった弱毒化株を雄マウス及び非妊娠雌マウスへ接種し、高病原性ネオスポラ株の攻撃試験を行いマウスの生存率を評価する。さらに雌マウスへ弱毒化株を接種し、交配後妊娠中期(妊娠7-9日)に高病原性ネオスポラ株の攻撃試験を行い母親マウスと仔マウスの生存率を評価する。これらの解析により流産率や垂直感染率が低下することを確認したワクチン株を選定する。ワクチン株と親株、熱処理原虫で感作させた免疫細胞の比較トランスクリプトームにより、ワクチン効果に必要な宿主応答を解析する。 【ベクターワクチン株の作製】候補ワクチン株に異種抗原遺伝子を組み込んだネオスポラのベクターワクチン株を作製する。具体的には、我々の先行研究でワクチン効果が確認されている各種原虫抗原(トキソプラズマ:TgGRA15、マウスマラリア原虫:PbCSP)、癌抗原(MuLV env gp70)を用いる。それぞれのワクチン株をマウスに接種後、抗原特的な抗体産生とT細胞の誘導を確認することで、接種条件を最適化する。次にベクターワクチン株の効果を検証するため、ベクターワクチン株接種マウスに対しトキソプラズマ及びマウスマラリア原虫(P. berghei)の攻撃試験を行い、マウス生存率の上昇や原虫の感染率の低下を確認する。癌細胞の場合、ベクターワクチン株接種マウスの背側皮下に癌細胞(CT26細胞あるいはB16細胞)を移植し、移植した癌細胞の増殖抑制やマウス生存率の上昇を確認する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
増殖能力が欠損した原虫株(NeoUA株)の作製に再検討の必要性が生じたため、当初予定していたマウスを用いた一連のワクチン評価試験を中断したことから次年度使用額が生じた。当該試験は本年度に実施予定である。
|