免疫学の発展によりウイルスや細菌に対する各種ワクチンが開発されているが、原虫病に対するワクチン開発は困難を極めている。近年の遺伝子編集技術の開発・進歩により様々な生物種への遺伝子導入や遺伝子破壊が容易となり、原虫の研究分野においても遺伝子を欠損させることでその病原性を弱めることが可能となってきた。そこで本研究では我々が確立した遺伝子編集技術を基盤として、原虫独自の感染伝搬能力を欠損させた次世代のワクチン株を作出し、様々な難治性原虫病の制圧及び癌ワクチン開発を目指した。 感染伝搬能力が欠損し潜伏感染できない原虫株を2種類作製した (NcGRA7KO株、NcSAG1KO株)。作製した原虫株の病原性を非妊娠マウスモデルで解析したところ、親株原虫と比較してマウス生存率の上昇および臨床症状の低下が確認され、病原性の低下が示された。NcGRA7KO株と親株接種後45日目にネオスポラの攻撃試験を行いマウスの生存率を比較したところ、NcGRA7KO株接種マウスの生存率の上昇が認められた。妊娠マウスモデルでネオスポラの攻撃試験による垂直感染を評価したところ、NcGRA7KO株の接種による垂直感染の防御を確認した。 次にネオスポラ接種による抗腫瘍効果の誘導を確認するために、マウスを用いた癌細胞移植モデルを構築した。CT26細胞移植マウスの腫瘍近傍に親株原虫を接種したところ、有意に腫瘍の成長が抑制された。腫瘍組織のmRNA発現解析と免疫組織科学的解析により、ネオスポラの感染初期にガスダーミンDが関与するパイロトーシスが起こり、強い免疫反応が引き起こされ、抗腫瘍免疫が誘導された可能性が示唆された。 本研究により、遺伝子編集技術を用いたネオスポラの弱毒化に成功し、ネオスポラ感染による抗腫瘍効果を確認した。今後は作製した弱毒株を用いて、難治性原虫病の制圧及び癌ワクチンへの検証を進める。
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