研究課題/領域番号 |
20K21364
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
関崎 勉 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (70355163)
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研究分担者 |
遠矢 真理 順天堂大学, 医学部, 助教 (20804694)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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キーワード | 豚レンサ球菌 / ゲノム解析 / 非共通領域 / clade特異的病原遺伝子 |
研究実績の概要 |
豚レンサ球菌(Streptococcus suis)は,29以上の血清型に型別されているが,病豚及びヒト患者から分離されるのは,血清型2型が最も多く,7, 9, 14型などがそれに続く。また,Multi-locus sequence typing (MLST)による遺伝子型別では,強毒と思われる2型に,Clonal Complex (CC)1と呼ばれる最も強毒なグループと,それに続くCC20, CC25, CC28, CC104などのcladeがある。さらに全ての健康豚のだ液に常在し,無毒と思われる株も存在するなど多様性を示すが,これらの毒力を規定する本質的な違いや真の病原遺伝子は不明である。そこで本研究では,多様性を示すS. suisをモデルとして,これまで不可能だったゲノム上の非共通遺伝子の比較から真の病原遺伝子を特定することを目的とした。ゲノム配列情報を増強するため,新たに,毒力が弱いと思われる健康豚から分離したS. suis 2株のゲノム配列をMiSeqおよびMinIONを使ってcomplete genome sequenceとして決定した。また,S. suisと比較解析するため以前はS. suisに分類されていて近年異種であると判明した近縁菌種であるS. parasuisおよびS. ruminantiumについても,重要と思われるそれぞれ5株および3株について同様にcomplete genome sequenceを決定した。それらと既にデータベースに登録されたS. suis 61株のcomplete genome sequenceを加えて比較ゲノム比較を行ったところ,3菌種の間で環境中での生存,あるいは,生体内での生存に適応するためと思われる代謝系遺伝子の有無における違いが明らかになり,これらと病原性との関連が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルス流行により非常事態宣言が出され,ウェットの実験を通常通り実施できない時期が多かったため,最初の作業である比較ゲノム解析をするためのcomplete genome sequence決定作業に取りかかったところで年度が終了した。そのため,実際の作業としては,年度途中から菌株の選定を行い,塩基配列決定作業は外注することで目的達成を目指したが,現状は得られたゲノム配列情報を単純に比較解析しているところまでしか進まなかった。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度は,3菌種間での比較で特にブタやウシへ病原性を示すS. suisおよびS. ruminantiumに共通に存在する遺伝子の機能解析を進める。同時に,当初目的としていた特に毒力が高いと言われているST1およびST28に特異的に存在する非共通遺伝子を抽出し,それらの機能解析を進める。初年度の進捗が遅れていることから,これらの機能解析では動物実験は行わず,既に毒力判定のマーカーとして利用されることがある,培養細胞や細胞間マトリックスへの接着性,バイオフィルム形成能,オートファジー誘導能などを,対象遺伝子をノックアウトした変異株と比較する。これらの成績を総合することで研究目的をより高いレベルで達成することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
ゲノム配列決定作業を外注により実施したことが,予定よりも安価で執行することができたため,他の消耗物品を年度内に購入するよりも,残額を翌年度に繰り越してまとめて執行する方がより効率的に研究を遂行できると判断したため。 残額は,翌年度予算と合算して適切に執行する予定である。
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