研究期間を通じ、成熟したミラシジウムが内包されている卵であっても等張ないし高張液中では孵化効率が著しく低下することが示された。このことから肝蛭卵あるいは内部の幼虫が周辺微小環境の浸透圧を感知していることが明らかになった。また哺乳類で浸透圧を認識する受容体は既に複数知られているが、これらの相同遺伝子が肝蛭ゲノム中に孫z内することを確認した。当該遺伝子を大腸菌に組み込んで組換えタンパク質を得て、これを抗原としてポリクローナる抗体の作製も行った。さらにこの現象を司ると思われる遺伝子をノックアウトすることを目標に、肝蛭の組換え体作成技術の開発にむけた基礎研究を推進した。今年度は肝蛭の組換え体作成技術の開発にむけた基礎研究を推進した。これまでに虫卵よりもスポロシスト期の幼虫を用いて組み換えを行うのが良いという予備的データを得たが、実験に供するために十分なスポロシストを中間宿主貝から得るのは難しい。そこで昨年度に確立した培養系を改良し、虫卵から安定してスポロシストが得られるようになった。さらに培養系で誘導したスポロシストを中間宿主貝に接種し、メタセルカリアを得ることに成功した。また肝蛭の生活環を通じて常に高発現している遺伝子を複数同定し、この遺伝子の推定プロモーター領域を用いた肝蛭用外来遺伝子発現プラスミドベクターを作成した。現時点で安定した組換え肝蛭を世界に先駆けて作成するところまでは至らなかったが、ほとんど基盤技術のなかった肝蛭の遺伝子操作にむけた、様々な技術や研究材料の整備は完了した。
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