研究実績の概要 |
生殖活動は次世代に自身の子孫を残す為に必須であり、生物にとっての最重要課題と言える。加えて、優秀な形質を有した子孫を残す為には、優秀なパートナーを選ぶことが重要である。これまでの研究で、ウズラでは血中テストステロン(T)濃度に依存して頬羽のメラニン含量が増加し赤みと黄みが強くなり、この「赤みと黄み」が雌の雄に対する嗜好性と有意な相関を示すこと、さらに雌も繁殖期には網膜の光受容体のうち、赤色光を受容するred opsinの発現が高まり、雄の羽装色の変化に鋭敏になることを世界で初めて明らかにした(Hiyama et al., Sci. Rep., 2018)。雄の個体の血中T濃度は、その雄個体の質を反映するという仮説が種々の動物で提起されている。本研究では、雌に好まれる雄の実際の受精能力や、その子孫の形質の調査を行なった。 雌に好まれる血中テストステロン濃度の高い雄と好まれない雄の精子濃度、運動性、精子の鞭毛長、精漿性状を調査するとともに、実際に交尾させ、受精能力を比較したところ、血中テストステロン濃度の高低に関わらず、精子鞭毛長の長い雄の精子が受精に有利であることが判明した。精子の加えて、広島大学のウズラバイオリソースから、鞭毛長の長い精子を作るドミナントブラック系統と、短い鞭毛長の精子を作るFawn2系統からF2世代を作出し、両者の鞭毛長の調査およびゲノムDNAのQTLseq解析を行なった。その結果、精子の鞭毛長は次世代に遺伝し、血中テストステロン濃度との関連性も見いだせず、環境要因の影響は受けないことが判明した。つまり、雌に好まれる雄の受精能力は必ずしも高いとは言えないことがわかった。現在、精子鞭毛長を制御する遺伝子の同定を目指し、次世代シーケンス解析結果の分析を行なった。
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