研究課題/領域番号 |
20K21369
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
村井 篤嗣 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (10313975)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | 畜産学 / 生理学 / 免疫学 / ニワトリ / ヒト / 抗体 / 受容体 |
研究実績の概要 |
鳥類のPLA2Rによる血中抗体の延命化の仕組みを調査するとともに、鳥類のPLA2Rと哺乳類のPLA2Rとの間で、抗体受容体としての機能に違いがあるのかを明らかにすることを目的に研究を推進した。本年度は鳥類のPLA2Rと哺乳類のPLA2Rとの間で、抗体受容体としての機能に違いがあるのかを調査した。得られた結果の概要は以下の通りである。 1) CHO-S細胞株(チャイニーズハムスター卵巣細胞株)を用いてヒトPLA2Rの組換えタンパク質を作出するための発現ベクターを構築した。市販のヒトPLA2R発現ベクターを入手して、細胞膜貫通領域を除いたヒトPLA2Rの遺伝子断片を発現ベクターに連結した。この構築した発現ベクターをCHO-S細胞へ遺伝子導入して、培養液中に放出された分泌型のヒトPLA2Rを精製した。 2) 鳥類のPLA2Rを作出するために、ニワトリPLA2Rの発現ベクターを構築した。上記と同様な方法で分泌型のニワトリPLA2Rを精製した。 3) 精製したヒトとニワトリのPLA2Rを96ウェルプレートに固定化して、反応溶液のpHを6.0あるいは7.4にセットして、その溶液にニワトリIgY、ヒトIgG、ヒトIgG4の3種類の抗体をそれぞれ加えて反応させた。洗浄後、各PLA2Rに結合した抗体を回収した。 4) ニワトリPLA2RはpH6.0の条件下でニワトリIgYと強固に結合し、pH7.4では、pH6.0よりも大幅に結合が減少した。ヒトPLA2RはニワトリIgYとpH6.0と7.4の条件下で弱く結合するが、いずれのpH条件でもヒトIgGならびにヒトIgG4と結合しなかった。以上より、ヒトPLA2RはIgGに対する抗体受容体として機能しないことが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究全体を通して、概ね順調に進んでいる。特に、ヒトのPLA2Rが抗体受容体としては機能しないことを明確に実証できた点は大きな成果であった。一方で、細胞レベルでのPLA2R機能の探索については、昨年度に樹立した恒久的にニワトリPLA2Rを発現するMDCK細胞株を用いてのIgYのリサイクリング機能やトランスサイトーシス機能を再現するには至っていない。そのため、1年間期間を延長して、当初予定したMDCK細胞株を使用しての研究を継続するとともに、PLA2Rを欠損させたゲノム編集ウズラを用いた血中IgY動態の解析も視野に入れる。
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今後の研究の推進方策 |
ニワトリPLA2Rを恒久的に発現するMDCK細胞株を用いて、IgYのリサイクリング機能に焦点を絞って研究を実施する。鳥類では、細胞内に取り込まれた血中のIgYがPLA2Rと結合することで細胞内での分解を免れて、再び細胞外に放出されることで血中IgYの寿命を延命化すると考えられる。そこで、MDCK細胞を培養皿に播種して、培養液中のIgYを一定量取り込ませた後に、その細胞から放出されるIgY量を測定することで、IgYのリサイクリング機能を実証する。また、PLA2Rを欠損させたゲノム編集ウズラの作出が進んでおり、この個体の血中IgY濃度を測定することで、リサイクリング機能を保有しているかを検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
細胞レベルでのPLA2R機能の探索については、昨年度に樹立した恒久的にニワトリPLA2Rを発現するMDCK細胞株を用いてトランスウエル上で培養を行ったが、十分量のIgYの輸送を検出することができなかった。そこで、1年間期間を延長して、通常の培養皿で細胞を培養し、リサイクリング機能を中心にPLA2Rの機能解析を実施する方針とした。また、PLA2Rを欠損させたゲノム編集ウズラを用いた血中IgY動態の解析も取り入れることを計画している。
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