これまでに、PLA2Rを恒久的に発現するMDCK細胞株を用いてIgYの輸送試験を行ってきたが、十分量のIgYの輸送を検出することができなかった。そこで、MDCK細胞(イヌ腎臓尿細管上皮細胞由来)に一過的にトリのPLA2Rを大量発現させる実験系を確立して、トリPLA2RがIgYの再放出(リサイクリング)や経細胞輸送(トランスサイトーシス)に寄与するのかを調査した。得られた結果の概要は以下の通りである。 1) MDCK細胞にリポフェクション法でニワトリPLA2Rの発現ベクターを遺伝子導入した。PLA2Rタンパク質の発現のピークは遺伝子導入から24時間後であることが判明した。 2) 平底のプラスティックウェルにMDCK細胞を培養して、PLA2Rを一過性発現させた。その後、培養液にIgYを添加して、MDCK細胞内に取り込まれたIgY量と再放出されたIgY量を測定した。その結果、PLA2Rを発現させても、発現させなくてもIgYの取り込み量とリサイクリング量に差は見られなかった。本培養系では、PLA2Rの機能を探索するのは困難と判断した。 3) 細胞内を通過する物質量を測定することができるトランウェルシステムを用いて、MDCK細胞にIgYを取り込ませた後、IgYのリサイクリング量とトランスサイトーシス量を測定した。その結果、PLA2Rを発現する細胞と発現していない細胞との間に、細胞内へのIgY取り込み量には差が見られなかった。一方、IgYのトランスサイトーシス量は、PLA2Rを発現させることで約1.6に増加した。したがって、鳥類のPLA2Rは細胞内を透過するIgY量を増加させることが判明した。 4) 一連の研究成果により、ヒトのPLA2Rは抗体受容体としての機能を持っていないこと、一方、トリのPLA2Rは抗体受容体としてはたらいており、PLA2RがIgYの細胞内輸送を増強することが示された。
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