本研究の目的は、ウシ下垂体前葉および毛包に存在するPRRX1/SOX2二重陽性の組織幹細胞の純化技術を確立すること、そして、毛包由来の組織幹細胞が運命転換により下垂体の組織幹細胞に転じて性腺刺激ホルモン産生細胞へ分化することを証明することである。今年度は、1. ウシ下垂体前葉におけるPRRX1/SOX2二重陽性細胞(以下、組織幹細胞)の分離・培養方法を確立し、その細胞から性腺刺激ホルモン産生細胞への分化誘導条件を検証すること、また、2. ウシ毛包における組織幹細胞の分離方法を確立し、下垂体細胞へ運命転換するメカニズムを検証することを目的として実験を行い、以下のような成果を得た。
1. ウシ下垂体前葉を酵素処理により分散した後、幹細胞増殖培地に懸濁してガラスボトムディッシュに播種し、培養後に増殖した細胞の性質を免疫細胞化学および定量PCRにより解析した。その結果、PRRX1/SOX2二重陽性の組織幹細胞をほぼ100%の純度で分離することに成功した。また、この細胞は上皮細胞マーカーEカドヘリンやサイトケラチンにも陽性であり、対照的に前葉ホルモンは陰性であった。以上より、ウシ下垂体前葉の組織幹細胞の分離・培養方法を確立した。一方、マウスと同様の分化誘導方法を適用したが、細胞の凝集体が形成されないことに加えて、ホルモン産生細胞への分化も確認できなかった。
2. 新型コロナウイルス感染防止のための規制の影響でウシ毛包のサンプリング機会がほとんど無くなってしまったが、数少ない機会を利用してウシ髭毛包の採材方法を確立し、その遺伝的性質を定量PCRにより解析した。その結果、採取した髭毛包においても、マウス髭毛包マーカー遺伝子が発現していることがわかった。しかしながら、細胞培養に用いるほどの細胞数を確保することができず、別の場所からのサンプリングを検討せざるを得なかった。
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