研究課題/領域番号 |
20K21374
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
枝重 圭祐 高知大学, 教育研究部総合科学系生命環境医学部門, 教授 (30175228)
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研究分担者 |
越本 知大 宮崎大学, フロンティア科学総合研究センター, 教授 (70295210)
松川 和嗣 高知大学, 教育研究部総合科学系生命環境医学部門, 准教授 (00532160)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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キーワード | 魚類未成熟卵子 / 凍結保存 / 高浸透圧傷害 / ネクロトーシス / カルボキシペプチダーゼ |
研究実績の概要 |
魚類の卵子/胚は、哺乳類の卵子/胚と比べて体積が1,000 倍以上と著しく大きく、表面積/体積比が小さくなり、凍結保存に不可欠な脱水と耐凍剤の浸透が不十分になるため、凍結・融解過程で細胞内に氷晶が形成されて死滅する。特に、胚と成熟卵子は細胞膜透過性が極めて低く、細胞の脱水・濃縮と耐凍剤の浸透が困難で、凍結保存は極めて難しい。これを克服するには、細胞膜透過性が高い未成熟卵子を用いることが不可欠である。しかしながら、魚類の未成熟卵子は高浸透圧に対する感受性が極めて高く、ゼブラフィッシュ未成熟卵子では0.5 M sucrose液に5分間浸すと20分後にはすべて死亡する。そこで、高浸透圧傷害のメカニズムとそれを克服する方法について検討した。これまでに高浸透圧傷害をある程度軽減する効果が確認されているリアノジン受容体阻害剤とネクロトーシス阻害剤等を組み合わせても、相加的な傷害の軽減効果は見られず、効果は限定的であった。次に、細胞死には様々なタンパク質分解酵素が関与していることから、高浸透圧傷害に対するタンパク質分解酵素阻害剤の効果をしらべた。アポトーシスに関与するカスパーゼを含むエンドペプチダーゼに対する阻害剤には高浸透圧傷害の軽減効果はみられなかったが、エクソペプチダーゼであるカルボキシペプチダーゼに対する阻害剤には強い高浸透圧傷害軽減効果が見られた。したがって、ゼブラフィッシュ未成熟卵子の高浸透圧傷害は、カルボキシペプチダーゼの活性化を介した未知の細胞内情報伝達経路を経て引き起こされていると示唆された。これらの傷害経路を阻害することにより高浸透圧傷害を克服できると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ゼブラフィッシュ未成熟卵子の高浸透圧傷害のメカニズムについて明らかになりつつあるが、ゼブラフィッシュ未成熟卵子の高浸透圧傷害を完全に回避する条件を見出すに至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに細胞質型カルボキシペプチダーゼが急性の細胞死に関わることを示唆した報告はない。ゼブラフィッシュでは4つのサブタイプの細胞質型カルボキシペプチダーゼが発現しているので、ジーンサイレンシングの手法を用いてそれぞれのサブタイプの発現を抑制した未成熟卵子を作製する。それから高浸透圧処理を行い、どのサブタイプが未成熟卵子の高浸透圧傷害に関与しているかをしらべ、高浸透圧傷害のメカニズムを明らかにする。さらに、細胞質型カルボキシペプチダーゼ全般を阻害する1,10-フェナントロリンをベースとし、ネクロトーシス阻害剤を含む様々な阻害剤を組み合わせて高浸透圧傷害をほぼ完全に抑制する条件を探索し、ゼブラフィッシュ未成熟卵子の凍結保存をこころみる。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルス感染拡大により一時期教員と学生の登校が禁止され、研究分担者の一人が予定していた実験を行えなくなり、配分した予算の一部は執行できなかった。当該研究分担者は翌年度に遅れていた実験を行う予定なので、翌年度分として請求した助成金と合わせて物品費として執行する予定である。
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