研究課題/領域番号 |
20K21376
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
宮本 圭 近畿大学, 生物理工学部, 准教授 (40740684)
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研究分担者 |
山之内 忠幸 独立行政法人家畜改良センター, 牧場・支場, 調査役・係長 (30713581)
松田 秀雄 独立行政法人家畜改良センター, 本所(企画調整部 技術グループ), 調査役・係長 (30442685)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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キーワード | 卵子 / 極体 / トランスクリプトーム / ウシ / Single cell RNA-seq |
研究実績の概要 |
家畜繁殖の分野において、体外で作出したウシ胚の受胎率向上が喫緊の課題である。低受胎率の原因の一つとして、胚の質の低下が想定されており、胚の質の低下は、着床前胚の卵割不全や早期流産を引き起こす。受胎率向上の為には、胚の質の実体を理解する必要があるが、胚の質を規定する遺伝子や特定の分子の同定に関して未だ研究が進んでおらず、その実体は掴めていない。また、卵子中に蓄えられた母性転写産物は卵子形成過程における遺伝子発現産物であり、受精後の初期胚発生においても不可欠な役割を果たすことが知られている。しかし、初期胚発生に必要な母性転写産物に関する情報は限られており、胚の質の評価に母性転写産物を利用する方法は確立されていない。本研究では、卵子中に蓄えられた母性転写産物に着目し、受精卵の発生能を損なうことなく、母性転写産物量を指標に胚の質を評価する新手法の開発を目指す。 まず、ウシ受精卵および付随する第二極体における全転写産物の発現様式を知るため、経腟採卵(OPU)で得た未成熟卵を体外成熟して得た成熟卵、あるいは同一ウシ個体から得た体内成熟卵を体外受精に供試し、受精卵および付随する第二極体をSingle cell RNA-seq(scRNA-seq)により解析した。その結果、受精卵と第二極体のトランスクリプトームは酷似していることを発見し、第二極体を用いた母性転写産物の比較解析が可能であることを示した。現在、正常発生胚あるいは異常発生胚に由来する極体を回収しており、ウシ胚の発生予測に使用可能な極体内転写物の同定を進める予定である。また、同一個体由来の体外成熟卵と体内成熟卵のトランスクリプトーム比較解析を実施しており、体外成熟が母性転写産物に及ぼす影響も評価している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和2年度の実験においては、OPUで得たウシ未成熟卵を体外成熟して得た成熟卵、あるいは同一ウシ個体から得た体内成熟卵を体外受精に供試し、受精卵および付随する第二極体を採取し、最終的にSingle cell RNA-seq(scRNA-seq)によりウシ受精卵および第二極体のトランスクリプトームを明らかにした。体内成熟卵の発生能は高く、同一個体由来の体外成熟卵との比較解析により、胚発生に関与する母性転写物の発現に差が生じていると考えられるため、現在この比較解析により胚の発生予測に使用可能な転写物を絞りこんでいる。また、これらのトランスクリプトーム解析によって、受精卵と第二極体のトランスクリプトームは類似していることを発見し、第二極体を用いた母性転写産物の比較解析がウシにおいても可能であることを示した。当初予定していた、胚盤胞期まで発生した胚に由来する極体(正常発生胚由来極体)、あるいは胚盤胞期以前で発生が停止した胚に由来する極体(異常発生胚由来極体)の回収については、コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、十分な実験数を実施できなかったため、令和3年度の始めに実施する予定である。最後に、繁殖能力や産肉能力に関わるSNP情報の取得については、ウシ第二極体トランスクリプトームデータから、少なくとも数個の遺伝子につき当該SNP情報の取得が可能であることがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の研究により、当初の研究計画に記載した通りの実験系により、ウシ第二極体内から母性転写産物を網羅的に検出し、比較解析を進めることが可能であることを示した。本年度の計画においては、(1)ウシ胚の発生予測に使用可能な転写物の同定、(2)高付加価値の胚を早期に選別する手法の確立を目指して以下の通り実験を進める。 (1)ウシ胚の発生予測に使用可能な転写物の同定:昨年度に引き続き、家畜改良センターにて胚盤胞期まで発生した胚に由来する極体(正常発生胚由来極体)、あるいは胚盤胞期以前で発生が停止した胚に由来する極体(異常発生胚由来極体)を回収する。これらの極体のscRNA-seqを近畿大学にて実施し、正常発生胚由来極体と異常発生胚由来極体におけるトランスクリプトームを明らかにする。そして、研究代表者がマウス胚を用いて得た同様の実験より、発生能の異なる胚由来の極体において、193個の差次的発現を示す遺伝子を同定しており、本研究で得られるウシトランスクリプトームとの比較解析により、ウシ胚の発生予測に使用可能な転写物を同定する。また、高発生能の体内成熟卵と発生能が低下した体外成熟卵の比較解析により、差次的発現を示す母性転写物を同定しており、これらの中からもバイオマーカーとなりうる転写物を探索する。 (2)高付加価値の胚を選別する手法の確立:上記実験より胚の発生能力や、SNPによる出産後の付加価値を探る上で重要な母性転写産物が同定される。そこで、第二極体を非侵襲的に回収し、Single cell RT-PCRによりSNP情報の取得と発生評価マーカーの発現量を精査する。これらの情報をもとに、胚移植に用いる胚を着床前の段階で選別する実験系の確立を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
現在までの進捗状況に記載した通り、当初予定していた、胚盤胞期まで発生した胚に由来する極体(正常発生胚由来極体)、あるいは胚盤胞期以前で発生が停止した胚に由来する極体(異常発生胚由来極体)の回収については、コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、十分な実験数を令和2年度の間に実施することができなかった。そこで、RNA-seq解析未実施分の解析関連費用を令和3年度使用予定分として次年度使用額(B-A)が発生した。令和3年度に当初予定した実験と並行して実施し、計上した予算を使用する予定である。
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