研究課題/領域番号 |
20K21384
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
藤木 克則 東京大学, 定量生命科学研究所, 助教 (10646730)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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キーワード | Hi-C / HiChIP / ChIA-PET / ChIA-drop / Pore-C / クロマチン構造 / 多領域間クロマチン相互作用 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は『核内におけるゲノムの高次構造を理解するための、多領域間クロマチン相互作用を1分子の解像度で網羅的に解析できる新たな手法の開発』である。申請時と研究開始当初においてはChIA-drop法を用いた多領域間相互作用検出法を技術基盤とした手法の改良を目指していたが、研究を進める上で同じ多領域間相互作用検出法であるPore-C法がより簡便で汎用性があり、本研究の目的達成のためにはPore-Cをベースとする新たな手法の開発がより近道であると判断した。Pore-C法は2点間相互作用検出法Hi-Cの改良版で、proximity ligationを行ったHi-Cのライブラリを断片化することなくロングリードシーケンサー(Nanopore)を用いて解読することで多点間の相互作用を簡単に検出することができる。しかしながら1回のNanoporeシーケンシングで得られるデータ量は少なく、Hi-Cに匹敵するほどの全ゲノムデータを得るためにはコストが嵩みすぎるという欠点がある。しかし多領域間相互作用の解析においてはむしろ特定タンパク質を介した相互作用に注目することがより有意義であると考え、標的タンパク質に絞った相互作用のみの抽出を可能にし、且つコストを最小限にすることが可能な標的型(targeted)Pore-C法の開発を行った。当初は標的抗体と抗体結合タンパク質融合型トランズポゼース(protein A-Tn5)を用いてin situで標的タンパク質周辺にビオチン化タグを挿入することで、Pore-Cライブラリから標的周辺領域だけを濃縮することを企図したが、protein A-Tn5がビオチン化タグと凝集体を形成し期待したタグ挿入効率が得られていない。次年度においてはこのタグ挿入効率を改善し、効果的な多領域間相互作用検出法を確立する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
多領域間相互作用検出法Pore-Cを改良し、標的タンパク質周辺のクロマチン構造に特化した新たな手法targeted Pore-C(tPore-C)の開発を行った。従来のHi-C(in situ Hi-C)法では近接DNA間での接合反応(proximity ligation)を行ったのちにゲノムを断片化し、接合部位のみを濃縮することで2点間相互作用を検出していたが、Pore-Cではこの断片化を行わずに接合した複数のDNAを一連の配列としてロングリードシーケンサー(Nanoporeシーケンサー)によって読み出すことで、多点間クロマチン相互作用を検出する。この方法は多点間クロマチン相互作用検出法としては非常に簡便であるが、Nanoporeシーケンサーの特性上、得られるデータ量が少ないため全ゲノムでの解析には不向きである。そこでPore-Cライブラリから研究標的とするタンパク質を介した相互作用のみを濃縮するため、標的周辺のゲノムにビオチン化タグを挿入する方法を探索した。当初はproximity ligation反応後の細胞中で標的タンパク質にそれと反応する抗体を結合させ、周辺のゲノムに抗体結合タンパク質融合型トランズポゼース(protein A-Tn5)によってタグを挿入する方法を試みた。しかし実際にはprotein A-Tn5の性質上、タグDNAと凝集を生じやすく期待するような標的周辺ゲノムのラベリング効率を得られなかった。今後はprotein A-Tn5を用いない方法によるラベリングを試みる。 また同時にNanoporeシーケンサーによる配列解読後のデータ解析プログラムの開発も並行して行った。Pore-C解析パイプラインを基本骨格に、tPore-Cで挿入されるタグ配列の検出・除去などの前処理を行う新たなプログラムを開発した。
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今後の研究の推進方策 |
tPore-C実現のための目下の課題は、抗原周辺へのビオチン化タグ挿入効率の向上である。protein A-Tn5はゲノムへのタグ挿入反応の前にあらかじめ挿入するDNAタグと複合体を作らせておく必要がある。この複合体を抗体標識したゲノムと相互作用させてその抗体周辺にタグを挿入させるのだが、実際の反応効率は期待ほど得られなかった。その原因として、複合体の形成時にTn5トランスポザーゼはタグDNAの両端にある特異的配列を認識して結合をするが、この配列認識の特異性が想定より低く、タンパク質がランダムに結合した非反応性のDNA: protein A-Tn5凝集体を形成してしまうことが挙げられた。様々な条件検討をおこなって凝集体の解消を試みたが改善には至らなかった。 そこで今後はprotein A-Tn5の使用を中止し、2次抗体と直接コンジュゲートしたビオチン化オリゴタグを抗原周辺へ挿入することを試みる。Pore-Cプロトコルにおいて制限酵素によるゲノムの断片化後に標的を1次抗体で標識し、そこへタグ結合2次抗体を結合させる。制限酵素断片のproximity ligationの合間にこのビオチン化オリゴタグを差し込むことによって標的周辺のライブラリのみを濃縮する。作製されたライブラリのシーケンスとその後のデータ解析については既に開発済みのプログラムで対応が可能である。
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