本研究は、[19F-Phe]-FKBP12と19F標識ピメクロリムス(難水溶性の免疫抑制剤)を生きた細胞内に導入し、その相互作用をin-cell 19F-NMRで解析し、解離定数を決定することを目指すものである。2020年度に、大腸菌発現系を用いて[19F-Phe]-FKBP12の調製を行っていたが、FKBP12の19F-Phe取り込みがあまり良くないという問題を抱えていた。そのため、今年度は大腸菌の株を従来のBL21(DE3)からDL39(DE3)に変え、[19F-Phe]-FKBP12の大量発現を試みた。なお、DL39(DE3)は、過去の論文で19F標識アミノ酸の取り込み90-99%と非常に高いことが知られている大腸菌株である。その結果、完璧とは言えないものの、かなり高い標識率で19F-PheがFKBP12に取り込まれるようになった。 また、ピメクロリムスの19F標識も試みた。以前に、ピメクロリムスと同様な免疫抑制剤であるラパマイシンに対して無水トリフルオロ酢酸処理し、エステル結合によって19F標識ラパマイシンを得る手法が米国パテントに報告されていたため、ここでも同様な手法を適用した。当初、ピメクロリムスの場合、その構造から無水トリフルオロ酢酸処理によるエステル結合の形成が難しいと考えられたが、条件検討の結果、ピメクロリムスに2つ存在するOH基の両者にCF3基を導入することに成功した。ただし、19F標識ピメクロリムスがラセミ化することが分かった。しかし、いずれのジアステレオマーもFKBP12と結合することをNMRにより確認した。
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