生物の生命維持には、均等な染色体分配が必須である。真核生物の染色体分配の分子機構は、全ての細胞で共通なものが重要と考えられてきた。しかしながら、細胞や生物種ごとに、独自の分配機構が存在するかもしれないという大胆な仮説を証明することが本研究の大きな目的である。 深川らは脊椎動物の培養細胞をモデルとして、セントロメアへの微小管結合タンパク質複合体Ndc80CのリクルートにはCENP-Cと呼ばれるタンパク質で担われる経路とCENP-Tで担われる経路があることを明らかにした。興味深いことに、この2つの経路が存在するにも関わらず、ニワトリDT40細胞では、CENP-T経路が主要に使われている。当初はこれが全生物に共通したセントロメア形成の分子機構であると考えていた。しかしながら、ショウジョウバエや線虫では、CENP-T経路に関わるタンパク質群は欠損しており、一方カイコでは逆にCENP-C経路に関わるタンパク質群が欠損してCENP-T経路が主要に使われている。また、ほとんどの脊椎動物では、ゲノム配列から判断すると2つの経路を有している。したがって、脊椎動物においては、2つの経路が存在しているものの、CENP-C経路とCENP-T経路が活用されるバランスが細胞種ごとに異なっているという可能性も考えられる。このパワーバランスが細胞種ごとに調整され、多様な染色体分配システムが維持されているとも考えられる。本年度までに、CENP-CとNdc80C/Mis12Cが結合しないマウス、CENP-CがCENP-Aと結合できない2種類にマウスを作成した。それらにH2B-GFPを導入して、表現型を観察した。CENP-CがCENP-Aと結合できないマウスは、E9.5d死滅し、CENP-Cヌルマウスとは異なる表現型をしめした。今後、どの細胞分裂異常が起きているかを解析する予定である。
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