病態診断を指向したアミロイド構造多形の簡便かつ迅速な評価法の構築

2020 年度 実施状況報告書

• 研究課題/領域番号: 20K21396
• 研究機関: 神戸大学
• 研究代表者: 茶谷 絵理 神戸大学, 理学研究科, 准教授 (00432493)
• 研究期間 (年度): 2020-07-30 – 2023-03-31
• キーワード: 蛋白質 / ミスフォールディング / アミロイド / 多形

研究実績の概要

アミロイド線維は、単純なクロスβ構造が基本構造であるにも関わらず、微視的には構造の多様性が見られる。このように一種類のタンパク質から様々なアミロイド構造が形成される性質はアミロイド線維の構造多形と呼ばれ、異なる病態や感染性をもたらす構造的な要因である可能性が指摘されている。しかし、これを簡便かつ鋭敏に識別できる手法は十分に確立されていない。そこで本研究では、アミロイド線維がヨウ素により多様な色に染まる現象に着眼し、ヨウ素分子をプローブとしてアミロイド多形を簡便かつ迅速に評価する方法を確立することを目指す。さらに、これを利用して、アミロイド多形の毒性への関わりと感染時の構造伝播機構を調べ、病態診断への応用も目指してアミロイド多形のイメージングにも挑戦する。
初年度であるR2年度は、ヒトインスリンのアミロイド多形をヨウ素染色すると異なる色調が確認されるという、本研究課題の端緒となった現象をまとめ、論文発表を行った。さらにヨウ素による呈色メカニズムを解明するために、計算科学的手法を用いてヨウ素染色したシクロデキストリン中に生成するポリヨウ素の電子遷移状態を調べた。また、ウシとヒトという異種由来インスリンが異なる線維構造を形成することと、これらの線維がセルフシーディングおよびクロスシーディングに伴い構造を複製あるいは変化させる様子を明らかにした。

現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

インスリンを題材としたこれまでの解析を通して、ヨウ素染色がアミロイド線維の構造多形を幅広く識別できる可能性が示唆された。ヨウ素染色の色調は、微細な構造の差異でも鋭敏に変化するようである。このことから、従来の手法では識別できなかった多形を同定するための新たな手段として利用できることが期待される。今後検証を進めることで、本可能性を見極めたいと考えている。
また、シーディング反応過程の構造追跡にも有用であり、インスリンのクロスシーディングでは、特異値分解解析の組み合わせにより段階的な構造変化と新規な構造の出現という新しい現象を見つけた。これまでのインスリンの結果はアミロイド線維形成機構解明の新しいツールとしての手応えを示すものであるので、これを足掛かりにして研究を進めたいと考えている。

今後の研究の推進方策

R3年度は、インスリン以外のタンパク質に対象を拡張して、幅広いタンパク質についてアミロイド多形をヨウ素染色で調べられるか否かを検討する。アミロイド多形を識別できることが分かった場合、線維構造と毒性との関連性やアミロイド線維の構造伝播機構について、ヨウ素染色パターンを指標にしながら取り組む。特に、クロスシーディングさらに、病理診断時にアミロイド多形を識別することを目指すのも本研究の重要な目標なので、研究協力者の協力を得て準備を進める。予備検討が可能になった時点で基板にアミロイド線維を塗布したような模擬試料の観察を開始する。

次年度使用額が生じた理由

Int. J. Mol. Sci.誌への総説の掲載が2021年3月に予定されていたが、執筆に遅れが生じた。そのため、掲載料と他論文に掲載されている図を引用するための著作権許諾手続き用に確保していた費用を繰り越した。4月22日に発行されたので、4月あるいは5月に使用する計画である。

研究成果

• [国際共同研究] ザガジグ大学(エジプト)
  • 国名: エジプト
  • 外国機関名: ザガジグ大学
• [雑誌論文] アミロイド線維前駆中間体の観測とそれを標的とした線維形成阻害―インスリン由来モデルペプチドとフィブリノーゲンを用いた検証― (2021)
  • 著者名/発表者名: 山本 直樹,茶谷 絵理
  • 雑誌名: 生物物理 巻: 61 ページ: 236-239
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] 核形成を経てアミロイド線維の生成に至るメカニズム (2021)
  • 著者名/発表者名: 茶谷 絵理
  • 雑誌名: 膜 巻: 46 ページ: 19-24
  • DOI: 10.5360/membrane.46.19
  • 査読あり
• [雑誌論文] Functional Assembly of Caenorhabditis elegans Cytochrome b-2 (Cecytb-2) into Phospholipid Bilayer Nanodisc with Enhanced Iron Reductase Activity. (2021)
  • 著者名/発表者名: Hamed A Abosharaf,Yuki Sakamoto,Aliaa M Radwan,Keisuke Yuzu,Mika Fujimura,Thoria Diab,Tarek M Mohamed,Eri Chatani,Tetsunari Kimura,Motonari Tsubaki
  • 雑誌名: Biomolecules 巻: 11 ページ: 96
  • DOI: 10.3390/biom11010096
  • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
• [雑誌論文] Breakdown of supersaturation barrier links protein folding to amyloid formation. (2021)
  • 著者名/発表者名: Masahiro Noji,Tatsushi Samejima,Keiichi Yamaguchi,Masatomo So,Keisuke Yuzu,Eri Chatani,Yoko Akazawa-Ogawa,Yoshihisa Hagihara,Yasushi Kawata,Kensuke Ikenaka,Hideki Mochizuki,Jozsef Kardos,Daniel E Otzen,Vittorio Bellotti,Johannes Buchner,Yuji Goto
  • 雑誌名: Communications biology 巻: 4 ページ: 120
  • DOI: 10.1038/s42003-020-01641-6
  • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
• [雑誌論文] Theoretical modeling for electronic structure of polyiodide species included in α-cyclodextrin (2020)
  • 著者名/発表者名: Masaki Okuda,Takato Hiramatsu,Mitsuru Yasuda,Mika Ishigaki,Yukihiro Ozaki,Michitoshi Hayashi,Keisuke Tominaga,Eri Chatani
  • 雑誌名: J. Phys. Chem. B 巻: 124 ページ: 4089-4096
  • DOI: 10.1021/acs.jpcb.0c01749
  • 査読あり / 国際共著
• [雑誌論文] Exploration of insulin amyloid polymorphism using Raman spectroscopy and imaging (2020)
  • 著者名/発表者名: Mika Ishigaki,Kana Morimoto,Eri Chatani,Yukihiro Ozaki
  • 雑誌名: Biophys. J. 巻: 118 ページ: 2997-3007
  • DOI: 10.1016/j.bpj.2020.04.031
  • 査読あり
• [雑誌論文] Iodine staining as a useful probe for distinguishing insulin amyloid polymorphs. (2020)
  • 著者名/発表者名: Takato Hiramatsu,Naoki Yamamoto,Seongmin Ha,Yuki Masuda,Mitsuru Yasuda,Mika Ishigaki,Keisuke Yuzu,Yukihiro Ozaki,Eri Chatani
  • 雑誌名: Sci. Rep. 巻: 10 ページ: 16741
  • DOI: 10.1038/s41598-020-73460-y
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] タンパク質に対する圧力研究の新展開-基本熱力学から,分子構造に基づく理解,アミロイド線維まで (2020)
  • 著者名/発表者名: 櫻井一正,茶谷絵理,後藤祐児
  • 雑誌名: 化学 巻: 75 ページ: 39-44
• [雑誌論文] Multistep Changes in Amyloid Structure Induced by Cross-Seeding on a Rugged Energy Landscape. (2020)
  • 著者名/発表者名: Keisuke Yuzu,Naoki Yamamoto,Masahiro Noji,Masatomo So,Yuji Goto,Tetsushi Iwasaki,Motonari Tsubaki,Eri Chatani
  • 雑誌名: Biophys. J. 巻: 120 ページ: 284-295
  • DOI: 10.1016/j.bpj.2020.12.005
  • 査読あり
• [学会発表] Single Sub-Millimeter Linear Assembly of Polystyrene Microparticles (2021)
  • 著者名/発表者名: Po-Wei. Yi,Wei-Hsiang Chiu,Tetsuhiro Kudo,Roger Bresoli-Obach,Johan Hofkens,Eri Chatani,Ryohei Yasukuni,Yoichiroh Hosokawa,Teruki Sugiyama,Shuichi Toyouchi,Hiroshi Masuhara
  • 学会等名: 第68回応用物理学会春季学術講演会
• [学会発表] Structural difference and its seed-dependent propagation manner of human/bovine insulin amyloid fibrils as detected by iodine staining (2020)
  • 著者名/発表者名: Keisuke Yuzu,Naoki Yamamoto,Masahiro Noji,Masatomo So,Yuji Goto,Tetsushi Iwasaki,Eri Chatani
  • 学会等名: 第20回日本蛋白質科学会
• [学会発表] Amyloid Formation And Breakdown Of Supersaturation (2020)
  • 著者名/発表者名: Masahiro Noji,Keiichi Yamaguchi,Eri Chatani,Yuji Goto
  • 学会等名: 第20回日本蛋白質科学会年会
• [学会発表] Thioflavin T Fluorescence Lifetime Assay Of Homogeneous Insulin Amyloid Fibrils (2020)
  • 著者名/発表者名: Akinori Oda,Tomoo Inubushi,Keisuke Yuzu,Eri Chatani,Etsuji Yoshikawa,Hiroshi Satozono
  • 学会等名: 第20回日本蛋白質科学会年会
• [学会発表] Optical Trapping and Assembling of Protein at Solution Surface (2020)
  • 著者名/発表者名: Po-Wei. Yi,Tetsuhiro Kudo,Eri Chatani,Ryohei Yasukuni,Yoichiroh Hosokawa,Teruki Sugiyama,Hiroshi Masuhara
  • 学会等名: 第81回応用物理学会秋季学術講演会
• [学会発表] Cross-seeding of human and bovine insulin amyloid fibrils induces stepwise conformational transition via intermediate states (2020)
  • 著者名/発表者名: Keisuke Yuzu,Naoki Yamamoto,Masahiro Noji,Masatomo So,Yuji Goto,Tetsushi Iwasaki,Motonari Tsubaki,Eri Chatani
  • 学会等名: 第58回日本生物物理学会年会
• [学会発表] アミロイド線維形成とリン脂質二分子膜破壊との関係性の解明 (2020)
  • 著者名/発表者名: Hiroki Takayama,Kaori Mageshi,Kenichi Morigaki,Eri Chatani
  • 学会等名: 第58回日本生物物理学会年会
• [学会発表] Multi-step conformational changes via intermediate states induced by cross-seeding of human and bovine insulin amyloid fibrils (2020)
  • 著者名/発表者名: Keisuke Yuzu,Naoki Yamamoto,Masahiro Noji,Masatomo So,Yuji Goto,Tetsushi Iwasaki,Motonari Tsubaki,Eri Chatani
  • 学会等名: 第93回日本生化学会大会
• [学会発表] アミロイド線維形成過程におけるリン脂質二分子膜の膜破壊機構の解明 (2020)
  • 著者名/発表者名: 高山 宙輝,曲師 香緒里,茶谷 絵理
  • 学会等名: 第93回日本生化学会大会