グアニン四重鎖 (G-quadruplex; G4) 構造は、特殊な核酸高次構造として細胞内に存在する。G4 構造は、グアニンが豊富な配列領域で1本鎖DNA・RNAが 形成する特殊な核酸高次構造として細胞内に 存在する。研究代表者はこれまで、グアニン四重鎖構造が学習・記憶に重要な役割を担うことを明らかにしてきた。本研究では、G4 構造による「DNA 可塑性」と「RNA エングラム」の存在を証明する。つまり、G4 構造が脳機能における学習・記憶の分子実態のひとつで あることを生物学的に明らか にすることを目的とする。エングラムは、動物の脳内に学習によって核酸やタンパク質などに暗号化されているとされているが、その分子実態は不明である。G4 構造が記憶の分子実態であることを解明できれば、これまでの科学における「記憶≒シナプス可塑性」仮説に一石を投じる 革 新的な研究となる。 本年度は、長期増強LTPなどの刺激における G4DNA の可塑性研究の基盤となるG4 ChIP-seq法の確立を行った。通常のChIP-seq法を改良し工夫することで、マウス培養神経細胞を用いた実験でゲノム上のGリッチ領域におけるピークを同定することに成功した。さらに、それらはヘテロクロマチン領域に多く見られた。また、マウス脳サンプルを用いてG4形成mRNA群とG4RNA結合タンパク質の網羅的な解析を行い、新規G4RNA結合タンパク質を同定した。グアニン四重鎖を形成し、神経機能維持のために必要なタンパク質をコードするmRNA群、つまり「神経細胞におけるグアニン四重鎖形成mRNA」を多数同定することができた。それらの中で特に神経機能に重要な役割を担うmRNAを特定し、そのmRNAで形成されるグアニン四重鎖の高次構造を明らかにした。そして、グアニン四重鎖の形状変化によってそのRNA動態が制御されることを見出した。
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