研究課題/領域番号 |
20K21405
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研究機関 | 国立遺伝学研究所 |
研究代表者 |
井ノ上 逸朗 国立遺伝学研究所, ゲノム・進化研究系, 教授 (00192500)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | 新規ウイルス / CRISPR-Cas / ファージ / 縄文人 |
研究実績の概要 |
これまでのウイルスゲノムを探索する研究は、相同性検索によって検出される、既知のウイルスに近縁な種に限られていた。本研究の目的は、CRISPR免疫記憶を利用して相同性検索に依存しない方法でファージゲノムを探索し、さらに得られたゲノムを用いてウイルス全体の進化と起源を明らかにすることである。 ウイルスゲノムには多様かつ未知の遺伝子が大量にコードされており、その大部分は細胞性生命で見つかる遺伝子とはホモロジーがない。生物の進化は遺伝子で測られる。大量の未知遺伝子を持つウイルスゲノムを網羅的に解析することは、生物学の根源的なテーマである生命の起源を解き明かす上で重要な役割があると我々は考える。ウイルスゲノムを解析することで得られる情報はウイルスのみの進化に関するものに限られない。 本年度は新規ウイルスの同定として、古代人からのウイルス同定を試みた。本研究では縄文人5検体から得られた歯髄由来の全ゲノムデータを用い、ウイルスの網羅的探索を行った。ウイルス同定のために、データベース上に登録のある既知のウイルスを参照配列として相同性検索を行った。これによって11種類の現代のウイルスと類似のゲノムを持つ縄文ウイルスを同定した。中でも北海道船泊遺跡の船泊23号検体から見つかったSiphovirus contig89(CT89)と呼ばれる細菌に感染するウイルス(ファージ)に関して遺伝子推定を行い、ゲノム構造を解析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
北海道船泊遺跡の船泊23号検体からはSiphovirus contig89(CT89)と呼ばれる細菌に感染するウイルス(ファージ)が完全長に近い形で見つかった。CT89は現代人の口腔内に存在することが知られている。この縄文CT89に関して遺伝子推定を行い、ゲノム構造を解析した。 縄文CT89配列と現代の配列との間で機能遺伝子の並び順が保存されていること、また、機能遺伝子の中にはCapsidやPhage portal proteinなどファージに特徴的な遺伝子が多く存在することがわかった。今回の解析によってデータベース上に登録のあった配列では未同定であった領域を同定できた。さらに、同じ解析手法を用い、先行研究で得られた口腔内メタゲノムデータを使ってCT89と相同な配列を探索したところ、合計で47個の相同かつ完全長の配列を同定できたことから、縄文CT89ゲノムは正しく同定できたといえる。 続いて4,000年間のCT89の進化過程を調べるためにCT89のゲノムを用いて系統解析を行った。ここで46の現代の配列と縄文CT89を含む2つの古代の配列を用いて、系統樹を作成した。CT89は大きく二つの系統に分かれ、縄文の配列は両グループから系統的に遠い部分に位置することがわかった。つまり、縄文CT89は祖先配列を反映していると推測される。
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今後の研究の推進方策 |
縄文時代の配列を用いることで、現代の配列のみでウイルス進化を推定するときに生じる短期的な時間スケールで生じるバイアスを回避した推定が可能となる。このように古代のファージ配列を用いて進化推定を行った例はなく、大変意義深い。今後さらに縄文ウイルスの同定数を増やすことによって、縄文人に感染していたウイルスの構成やその進化をより詳細に調べられるようになると期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験消耗品の供給状況が安定せず、購入ならびに執行に至らなかったため。予定していた実験を次年度に進める際、主に物品費として使用する。
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