研究課題/領域番号 |
20K21407
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
村川 泰裕 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, チームリーダー (50765469)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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キーワード | エンハンサー / 遺伝子発現制御 / ゲノムサイエンス / ヒトゲノム解析 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、1細胞レベルでエンハンサー活性を解析できる画期的な新技術single-cell eRNA sequencing法の確立に挑戦している。遺伝子からRNAへの転写を制御するゲノム領域として、遺伝子近位のプロモーターや遠位のエンハンサーがある。とりわけ、エンハンサーは、時空間特異的に活性化し、遠位から標的遺伝子の発現を強力に増強し、様々な細胞や機能を生み出す。エンハンサーの機能的重要性は、ヒトの病気に関連するゲノムの一塩基多型が、エンハンサーに最も濃縮している。活性化したエンハンサーの両端からは、エンハンサーRNA (eRNA)と呼ばれるnon-coding RNAが転写される。しかし、eRNAは核内で数分という極短時間で分解される。我々は、この短寿命のeRNAを超高感度に検出し、高精細に機能的な活性化エンハンサーを同定する解析技術を開発している。本研究課題では、申請者らが2019年に報告したbulkの細胞/組織からeRNAを高感度検出するNET-CAGE法を更に発展させ、1細胞レベルでエンハンサー活性を解析できる画期的な新技術single-cell eRNA sequencing法の確立に取り組んでいる。ウェット実験およびドライ解析法を工夫することで、超高感度にシングルセルRNA sequencingデータから、特異的な細胞集団毎にエンハンサーを検出することに成功した。そして、本技術をヒトのヘルパーT細胞に適用することで、様々な希少な細胞集団の同定、さらにはこれらの細胞集団における活性化エンハンサー部位の同定にも成功している。さらに、ヒト疾患ゲノムとの統合解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
eRNAの検出力を飛躍的に高めるための種々の工夫を施した。eRNAを効率的に検出するにはRNAの5'末端を検出する必要があるが、ウェット実験を工夫することで、一細胞レベルでRNA分子の5'末端を高い正確度で検出・同定できるように新たな開発を行った。さらに、5'末端シークエンスデータには、真の5'末端とバックグランドが混在しているが、発現レベルの低いeRNAの検出には、このバックグランドの見極めが肝になる。そこで、申請者らは独自の情報解析技術を開発することで、バックグランドを極限まで大幅に減らすことにも成功した。ヒトのヘルパーT細胞に対して、独自に開発sた技術を適用することで、飛躍的な数万か所以上の活性化エンハンサー部位を同定することに実際に成功した。このデータをもとに、様々な希少な既知および未知の細胞集団を同定することができ、さらにこれらの細胞におけるエンハンサー領域を同定することができた。本技術基盤およびにデータ基盤は、今後のヒトゲノム解析・疾患解析に大きく貢献できると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
1細胞レベルでエンハンサー活性を解析できる画期的な新技術single-cell eRNA sequencing法に更なる技術開発を行う。具体的には、(1)eRNA/エンハンサー領域のさらなる高感度検出を可能にする、(2)一度の実験により処理できる細胞数のスループットを高める。そして、ヒトの様々な臓器や細胞種に対して、single-cell eRNA sequencing法を行い、人体の高精細エンハンサーマップを作成する。そして、近年の大規模のGWAS解析により次々と同定される病気や形質に関連するSNP (これらの大部分がエンハンサーに存在) と統合解析を行い、様々なcommon diseaseの責任細胞および転写異常を特定し、ヒトゲノムの多様性による疾患発症のメカニズムを解明する。具体的には、エンハンサー領域の解析により、遺伝子発現に影響する機能的な変異を同定し、全ゲノム解析の臨床応用に貢献する。将来的なゲノム医療への応用を視野に入れて、発展的な技術になるように技術開発・データ基盤構築を行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
ほとんどの予算を執行したが1,845円の消耗品を来年度に使う。
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