エンハンサーは、非コーディング領域に存在し、極めて時空間特異的に活性化し、遠位から標的遺伝子の発現を強力に増強するゲノム配列である。活性化したエンハンサーの両端からは、eRNAと呼ばれるnon-coding RNAが転写される。このeRNAは短寿命で発現量も少なく検出が困難であるものの、このeRNAを検出することで高塩基解像度で機能的なエンハンサー部位を同定することができる。本研究では、我々は、1細胞トランスクリプトームのデータから各々の細胞のエンハンサー活性を解析できる画期的な新技術・解析法(Read-level prefiltering and transcribed enhancer call法)を確立した。この手法を用いることで、約50万個ものヒトのCD4陽性T細胞におけるエンハンサーマップおよび遺伝子の発現マップを高精細に作成することに成功した。さらに、病気SNPの大部分は非コーディング領域に存在することが知られている。本研究では、エンハンサーマップと大規模なヒトGWASデータとの統合解析を行った。それによりGWASの責任SNPをピンポイントで絞りこむことを試みて、GWASデータの機能的な解釈を進めた。その結果、遺伝子の発現に影響を与えうる機能的な多型やその標的遺伝子ならびにそのエンハンサーが機能している細胞種を特定することで、ヒトの疾患に関与している分子経路を詳細に解析することに成功した。これにより、従来の全ゲノム配列解析を、より機能的な方向性に転換・発展させ、新たな機能性ゲノム学の潮流を生み出すことに貢献したと考える。
|