研究課題
①種々の生体ストレスによる複製チェックポイント活性化を検証する:1)熱、酸化ストレス(H2O2) 、高塩濃度、LPS, 高濃度グルコース、低酸素、ヒ素、などの生体ストレスは、MEF細胞、がん細胞などでClaspin依存的に複製チェックポイントを活性化する。②ストレス応答制御因子と複製ストレス応答のクロストークの検証:1) ストレス後1-4時間のChk1の活性化のIntegrated stress response経路への依存性を調べた結果、HU,UVはIRSに依存しなかったが、高塩濃度、熱、LPSなどのストレス応答はIRSに依存していた。③生体ストレスによる複製障害誘導のメカニズムを調べる:1)DNA fiber法を用いて、複製ストレスが複製フォーク進行速度に与える影響を検討した。HUやUVはフォーク速度を50%程度低下された。一方、熱、LPSは大きな影響を与えなかったが、酸化ストレスは30%程度低下させたのに対し、高塩濃度処理は一過性に50%程度増加させた。2)熱、酸化ストレスは、複製ストレスの指標のひとつである、一本鎖DNA結合タンパク質(RPA)のリン酸化を活性化した。3) 熱と高塩濃度処理は、DNA損傷のマーカーであるγH2AXを誘導した。4)DNA合成を調べた結果、HUやUVのみならず、LPS(細菌感染)と高温、あるいは酸化ストレスによっても、それぞれ、24時間後あるいは4時間後に低下した。5) MAP kinaseカスケードはこれらのストレスにより活性化されない。
3: やや遅れている
コロナ禍の影響で、動物実験などに影響が出て、研究項目の一つであった『ストレスによる腫瘍形成促進をモデル動物で検証する』に取りかかることができなかった。また、DNA fiberの手法の確立に時間を要したため、『種々の生体ストレスが、複製障害を誘導するかどうかを検証する』の研究項目について、進行が予定より遅れた。
1 DNA fiber実験の結果から、生体ストレスが複製フォークの進行に影響を及ぼす可能性が示唆された。今後、複製起点活性化の頻度に与える影響など詳細に解析する。2 細胞内のヌクレオチド前駆体の減少は複製障害の大きな原因となるため、ストレス添加により細胞内ヌクレオチド前駆体が変動するか検討する。3 複製と転写の衝突は、DNA-DNAハイブリッドを含むR-loop構造の形成により複製障害を生じることが知られている。生体ストレスは、一般に大きな転写誘導を引き起こす。実際、酵母において、酸化ストレスなどが、転写-複製衝突を誘導し、Mrc1依存的な複製ストレス応答を誘導することが報告された。転写-複製衝突はR-loop形成を誘導することが知られているので、RNaseHの発現によるR-loopの減少が、生体ストレスによるClaspin依存的なChk1活性化の低下をもたらすか検討する。4 生体ストレスによるClaspin-Chk1活性化に関与するClaspinの上流および下流の分子を解明する。酵母の研究から、mpk1(熱)、Psk1(酸化ストレス)、Snf1(栄養ストレス)が、それぞれのストレスに応答してMrc1をリン酸化することが示された。そこで、これらの動物細胞ホモログであるextracellular signal-regulated kinase 5(ERK5)、S6K、AMP-activated protein kinase(AMPK)が、生体ストレスによるChk1活性化に関与する可能性を検証する。5 Claspinの上流にATR以外のPIKK(phospho-inositide 3-kinase related kinase)が関与する可能性を検証する。6 マウスレベルで、生体ストレスを加えた細胞のxenograftを行い、生体ストレスなしの細胞と癌化や転移の頻度を比較する。
コロナ禍で、実験遂行に大きな障害が出て、動物実験などに大きな影響がでた。腫瘍形成実験などの動物実験を行うための費用、また、誘導される複製障害について、詳細に解析するための血清、培地、試薬、受託研究などの費用に充てる。
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