研究課題/領域番号 |
20K21410
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
正井 久雄 公益財団法人東京都医学総合研究所, 基礎医科学研究分野, 所長 (40229349)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | 熱ショック / 酸化ストレス / 浸透圧ストレス / 栄養ストレス / Claspin / Chk1 / DNA複製チェックポイント / 統合的ストレス応答 |
研究実績の概要 |
私達は、これまで、複製障害に応答して活性化される、進化的に保存されたATR-Claspin-Chk1経路の解析を行ってきた。この経路でClaspinは複製ストレスシグナルを受け取るATRキナーゼから、そのシグナルを細胞周期制御因子へと伝えるChk1キナーゼへと仲介する役割を果たす。Chk1キナーゼのS317のリン酸化はClaspinに依存して起こり、この経路の活性化の目印となる。複製ストレス応答の不全はゲノムに損傷を誘導し、究極的にがんの発生の原因となる。 これまでに、細胞に、種々の細胞ストレス(高温、酸化、ヒ酸塩、浸透圧、低酸素、LPSなど)を与えることにより(3時間)、Claspinに依存してChk1の活性化が起こることを発見した。この事実は、複製とは一見関連していない細胞ストレスを短時間与えることにより、複製障害が誘起され、複製ストレス応答経路が活性化されることを示唆する。 この事実から、種々の生体ストレスは、複製ストレスを誘起し、その結果ゲノム損傷を引き起こし、最終的に発がんの原因となるゲノム変動を蓄積するという道筋が推測された。 HU、ひ酸塩、高温は、gammaH2AXで示されるDNA損傷を誘導したが、高塩濃度、LPS, 高濃度グルコース、低酸素は、顕著なDNA損傷を誘導しなかった。 さらに、前者はS期特異的にChk1を活性化し、DNA損傷を誘導したが、後者によるChk1活性化はS期特異的ではなかった。又、生体ストレスにより誘導されるIntegrated stress response経路と、DNA 複製チェックポイントの関連について解析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
種々の生体ストレスが、複製障害を誘導するかどうかを検証する: HU、ひ酸塩、高温、高塩濃度、LPS、高濃度グルコース、低酸素などは、複製チェックポイントをClaspin依存的に活性化する。Chk1のリン酸化が細胞周期のいつ起こるかを調べた結果HU、ひ酸塩、高温は、主にS期にChk1活性化、又DNA損傷も誘導した。これに対して、他のストレスによるChk1活性化は主にS期以外に起こった。 ストレス応答制御因子と複製ストレス応答のクロストークを検証する: 種々のストレスによりIntegrated Stress Response(ISR)が誘導され、eIF2αをリン酸化するISRキナーゼを誘導する。ISR kinaseを欠損すると、複製チェックポイント活性化の持続時間が短くなる。特にPERKとHIRは、recoveryを阻害して活性化の持続時間を長くする。 生体ストレスによる複製障害誘導のメカニズムを調べる: ストレス添加により細胞内ヌクレオチド前駆体が変動するか検討する。複製と転写の衝突は、DNA-DNAハイブリッドを含むR-loop構造を形成することにより複製障害を生じることが知られている。RNaseHの発現によるR-loopの減少が、ストレス添加によるChk1活性化の低下をもたらすか検討する。 ストレスによる腫瘍形成促進をモデル動物で検証する実験を計画していたが、コロナ禍のため、動物室に使用の制限などもあり、進めることができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
1)種々の生体ストレスが、複製障害を誘導するか、そして最終的にゲノム不安定性を誘導するかどうかを検証する: これまでの、結果に基づき、複製に直接影響を与える生体ストレスと、間接的にチェックポイントを誘導するものに別れることを示唆する。そこで、DNA fiber法を用いて、ストレス後に、複製フォークの進行速度あるいは複製起点間の距離が変化するかを調べる。これらの生体ストレスがゲノム不安定性を誘導する可能性を検証する(lagging chromosome, acentric, chromosome bridgeなどの生成、そしてcolony formation assaysを行いlong-term viabilityに対する影響も調べる)。 2)ストレス応答制御因子と複製ストレス応答のクロストークを検証する: Claspinは生体ストレス前後で修飾の変化、相互作用分子の変動があると推定される。そこで、Claspinの化学修飾と相互作用分子をストレスの前後で同定する。そのためにTK6(ヒトリンパ芽球細胞)において内在性のClaspinにtagを付加した細胞株をすでに樹立したので、この実験に用いる。 3)生体ストレスによる複製障害誘導のメカニズムを調べる: 転写と複製の衝突により生じるRNA-DNA hybridなどが、今回見出したCheckpointの活性化を起こしている可能性を検証する。RNaseHの発現によるR-loopの減少が、種々のストレス添加によるChk1活性化の低下をもたらすか検討する。転写阻害剤の影響も検討する。 4)ストレスによる腫瘍形成促進をモデル動物で検証する: 各種のストレスを与えたヒト細胞(p53欠損細胞, 不死化した細胞など)をヌードマウスに移植(Xenograft)し、腫瘍発生効率に及ぼすストレスの影響を測定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で、実験遂行に障害が出て、マウスを用いた動物実験の計画を立てることが困難で遂行できなかった。また、Claspin抗体を用いた免疫沈降の実験を行ったが、抗体の質の問題で、相互作用分子の検出が困難であった。そこで、ヒト細胞の内在性のClaspin遺伝子にFlag tagを付加する実験を進めた。この細胞株を、検証した上、相互作用分子の検出に用いる。今後、ストレスによる腫瘍形成への影響をモデルマウスを用いて検証する。 また、細胞培養に必要な培地、血清、動物実験を進めるために必要な種々の試薬(動物購入も含める)、また、委託研究のために必要な費用に充てる。
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