研究課題
私達は、これまで、複製障害に応答して活性化される進化的に保存されたATR-Claspin-Chk1経路の解析を行ってきた。この経路でClaspinは複製ストレスシグナルを受け取るATRキナーゼから、そのシグナルを細胞周期制御因子へと伝えるChk1キナーゼへと仲介する役割を果たす。Chk1キナーゼのS317のリン酸化はClaspinに依存して起こり、この経路の活性化の目印となる。複製ストレス応答の不全はゲノムに損傷を誘導し、究極的にがんの発生の原因となる。これまでに、細胞に種々の細胞ストレス(高温、酸化、ヒ酸塩、浸透圧、低酸素、LPSなど)を与えることにより(3時間)、Claspinに依存してChk1の活性化が起こることを発見した。この事実は、複製とは一見関連していない細胞ストレスを短時間与えることにより、複製障害が誘起され、複製ストレス応答経路が活性化されることを示唆する。これらの検証から、種々の生体ストレスは、複製ストレスを誘起し、その結果ゲノム損傷を引き起こし、最終的に発がんの原因となるゲノム変動を蓄積するという道筋が推測された。HUとともに、ヒ素塩、高温、過酸化水素は、DNA複製を強く阻害した。他のストレスは、DNA複製を顕著に阻害しなかったが、いずれのストレスもChk1を活性化し、gammaH2AXで示されるDNA損傷を誘導した。さらに、一般にS期におけるChk1活性化はClaspinに強く依存したが、G1期における活性化のClaspin依存性は低かった。高温はDNA複製を阻害するが、G1期にも強くChk1を活性化した。また、Integrated stress response経路に関与するGCN2, HRIキナーゼが高温におけるChk1活性化に必要とされることが明らかとなった。
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