研究課題/領域番号 |
20K21412
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
小金澤 雅之 東北大学, 生命科学研究科, 准教授 (10302085)
|
研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2025-03-31
|
キーワード | Drosophila / fruitless / 求愛行動 / 行動進化 |
研究実績の概要 |
ショウジョウバエ神経系の性差形成はfruitless (fru) 遺伝子が司っている。本研究は、fru遺伝子の発現制御配列の変化などによってfru発現神経回路の接続が変化することが求愛行動パターンの種特異性を生み出すと想定している。研究に先立ち、D. subobscuraのfru遺伝子の5'上流配列にGAL4遺伝子を連結した人工遺伝子(= sub-fru-GAL4)をD. melanogasterに導入したトランスジェニックハエを利用し、sub-fru-GAL4発現ニューロン群の強制活性化を行うと、D. subobscuraの求愛に特徴的な婚姻贈呈様の大きな吻伸展が誘導されることを見出し、この行動を誘起した原因ニューロン(Kissニューロン)を同定していた。
本年度も固定状態で吻部の動きを明瞭に観察できる実験系を用いて、Kissニューロンの神経回路上での位置関係を探った。求愛行動時の「リッキング」の制御に関わるaSP22ニューロンとの関係に注目した。まず求愛解発の最高次ニューロンを含むdsx発現ニューロンの活性化で誘導される吻伸展は、aSP22ニューロンの阻害によって顕著に抑制されることを明らかとした。さらにaSP22ニューロンの活性化で誘導される吻伸展が、Kissニューロンの阻害によって抑制されることも明らかとした。これらの結果からdsx発現ニューロン--->aSP22ニューロン--->Kissニューロンという機能的接続関係が明らかとなった。
ショウジョウバエ脳のコネクトームに関して、これまではKissニューロンの存在する食道下神経節に関しては解析がなされていなかったが、今年度の夏に食道下神経節も含む形でのデータベースFlyWireが公開された。形態情報をもとにしてKissニューロンの候補を同定することができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度から継続して、固定状態で吻部の動きを明瞭に観察できる実験系を構築し、吻伸展を誘導するニューロンの活性化とKissニューロンの阻害を組み合わせて、Kissニューロンの神経回路上での位置関係を解析した。昨年度までにKissニューロンが求愛行動に伴う吻進展の制御に「特化」している可能性が示唆されていたが、本年度に求愛行動時のリッキングに関わるaSP22ニューロンとの機能的接続関係を明らかにすることによって、Kissニューロンの特殊性がさらに明確になった。ショウジョウバエ脳のコネクトームに関して、これまではKissニューロンの存在する食道下神経節に関しては解析がなされていなかったが、今年度の夏に食道下神経節も含む形でのデータベースFlyWireが公開された。形態情報をもとにしてKissニューロンの候補を同定することができた。これまでの実験的解析で得られた結果とコネクトームデータベースから得られた情報の統合を試みている。
Kissニューロンを標識可能と想定される配列を持つGAL4ドライバーをゲノム編集技術によりD. subobscuraゲノムに導入した系統作成も継続的に行ったが、技術的問題により進展が見られなかった。
|
今後の研究の推進方策 |
① Kissニューロンおよび他のニューロンの同時機能操作実験を通して、Kissニューロンの上流および下流に位置するニューロン群を実験的にさらに詳しく特定する。またFlyWireコネクトームデータベースから得られた情報(Kiss候補ニューロンに接続するニューロン等)を利用して、実験的に明らかとなったKissニューロンの求愛行動特異性を実現しいてる神経回路機構を明確にする。
② D. melanogasterでKissニューロンを標識できるエンハンサー配列にGAL4を接続したトランスジーンをD. subobscuraに導入してもシグナルが観測できなかった。そこでD. subobscura自身の配列を使ったトランスジェニック系統の作出を今年度に引き続き試みる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
D. subobscuraを用いたトランスジェニックハエは、現段階では確立した系統がD. subobscura脳内でKissニューロン様の細胞を標識できるか確認できていない。これまではD. melanogasterのゲノム配列をGAL4遺伝子に融合したドライバーをD.subobscuraに導入していたが、別種の配列であるため有効に機能していない可能性も示唆された。そのため新たにD. subobscuraのゲノム配列そのものを利用したトランスジェニックハエの作出とその機能解析が必要になると判断された。今年度もそのトランスジェニック系統の作出を試みたが、配列上の問題等のため作出自体が滞ってしまった。研究上の要点であるので、これを実現するために経費を次年度に残し再挑戦することとした。
|