本研究では,ミトコンドリアのクリステ構造が形成されるメカニズムの解明を目指した。まずは,これまでにわれわれが出芽酵母で見出したクリステ形成機構に関する知見,すなわち,ミトコンドリア内膜のMICOS複合体とミトコンドリア内膜融合因子Mgm1,もしくはMICOS複合体とミトコンドリア膜間部のリン脂質輸送因子Mdm35が同時に欠損するとクリステ形成が著しく阻害されるという知見が,ヒト培養細胞においても同様に見られるかを確認した。具体的には,MICOS複合体(ヒトMic60),ミトコンドリア内膜融合因子Mgm1(ヒトOpa1),ミトコンドリア膜間部でリン脂質輸送を仲介するUps1-Mdm35複合体(ヒトPRELI-TRIAP複合体)を欠失したHeLa細胞を構築した。さらにMic60とTRIAP,またはOpa1とMic60の二重欠損HeLa細胞の構築を行った。これらの細胞株を用いて,蛍光顕微鏡によるミトコンドリア形態の観察や,電子顕微鏡解析によるミトコンドリアクリステ形態の観察を行った結果,二重遺伝子欠損細胞では,ミトコンドリア形態,クステ形態ともに異常となることがわかった。 さらに,クリステ膜形成の分子メカニズム解析を目指し,MICOS複合体,Mgm1を大量調製する実験系の構築を行った(Ups1-Mdm35に関しては,すでに大腸菌から大量調製する実験系を構築済み)。MICOSとMgm1は,大腸菌で不溶性タンパク質として発現してしまい,大量調製することはできなかったので,出芽酵母からの調整を試み,MICOS複合体に関しては少量ではあるが,複合体を精製することができた。一方Mgm1に関しては十分な量のタンパク質を得ることはできなかった。今後これらの因子をリポソームに組み込み,そのプロテオリポソームの形態を電子顕微鏡解析することで,クリステ形成機能の解析を行っていく。
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